オペアンプ版
積分器
- オペアンプのイマジナリーショートの特性より、反転、非反転入力の電圧は等しく$V_B=V_C=\cfrac{V_f}{2}$ である。(1V)
- 時刻t=0 において、コンデンサC1の電荷がゼロならば、ここの電位差はゼロVなので、オペアンプ出力$V_s=\cfrac{V_f}{2}$ である。(1V)
- チャージ工程:抵抗R4がグランドに落ちていないとき(=引用元 図8-16 のnpnがオフのとき)、抵抗R1を流れる電流はC1をチャージする。
- C1に電荷が溜まって行き電位差が生じるが、オペアンプの非反転入力$V_C=\cfrac{V_f}{2}$ のため、出力$V_S$ はスイッチがON(npnがオン)になるまで相対的に下がる。(t=6ms, 1V → 0V)
- 時刻t=6ms において、スイッチがONすると抵抗R4はグランドにつながり電流が流れる。このときの電流値は$I_{R4}=2 \cdot I_{R1}$ である。($I_{R4}=20 \mu A,\; I_{R1}=10 \mu A,$) 不足する電流はC1からの放出で補われる。($I_{C1}=10 \mu A$)
- このとき出力$V_S$ はスイッチがOFF(npnがオフ)になるまで相対的に上がる。(t=12ms, ≃0V → 1V)
コンデンサへのチャージ前後の電位差を$\Delta V_C$ とするとき、チャージ時間T は次式で表せます。
ディスチャージ時間もチャージ時間と同じなので、周期は $2T$ になります。
ヒステリシスコンパレータ
この(4)式より、ヒス幅を大きくするには$R_1$ を大きくするか、$R_3$ を小さくすることだとわかります。積分器でのCR時定数が同じ場合、ヒス幅を大きくすればそれだけ充放電時間を要することになり、発振周波数を低くできます。
リセット回路(NPNトランジスタ)
- トリガーの出力が High の場合、NPNトランジスタがオンになります。
- トリガーの出力がLow の場合、NPNトランジスタ はオフになります。
計算式とシミュレーション
積分器とヒステリシスコンパレータをつなげると、チャージ時間とディスチャージ時間はともに同じで、$\Delta V_C$ を$\Delta V_{th} $ に書き換えて
下記にLTspiceでシミュレーションした$V_f=1[V]$ での時刻歴波形と右側にVCOグラフ(制御電圧$V_f$ と発振周波数の関係)を示します。
トランジスタのスイッチング改善
スピードアップコンデンサとプルダウン抵抗を追加して、トランジスタの応答性改善の効果を見ます。
下図に示すように、1000pF と10kΩ の組み合わせで最良の効果を得ることができます。
オペアンプの効果
LM358が電圧が高いと周波数がサチュレートしているのに比べて、TL072とLT1364はリニアに伸びています。特にLT1364はLM358よりも周波数可変範囲が3倍あるという結果です。
下図はQC Connect の記事「OPアンプのオープン・ループ・ゲインと周波数特性」で紹介されている回路を使って、3つのオペアンプの周波数特性を比較したものです。VCO周波数の結果と重ねると、周波数特性の良いオペアンプほど、VCOのリニアリティが良いという結果になります。
実験
ブレッドボードで回路を組んで特性を測定しました。スイッチング改善のスピードアップコンデンサとプルダウン抵抗を入れています。分圧抵抗はすべて47kΩにしました。
0Vから電圧を上げていったときに発振を始めた$V_f=0.210V$ と$V_f=10V$ の2ケースでのオシロ波形を載せます。紫:$V_f$、水色:S端の三角波、黄色:Out矩形波出力です。
$V_f=0.210V$ で649Hzあたりから発振を始めます。三角波から読み取ったスレッショルドは$V_{TH}=8.0V$, $V_{TL}=4.8V$ でした。
$V_f=0.210V$ |
$V_f=10V$ での発振周波数は 6.25kHz でした。前条件との比率は$\cfrac{6.25k}{649}=9$倍です。
$V_f=10V$ では出力が応答できておらず、Out出力は矩形波ではありません。この傾向は前条件の発振初期でも台形状の波形として見られます。kHz域の出力には向いていません。
オシロで測定されたスレッショルドは$V_{TH}=14.0V$, $V_{TL}=-1.0V$ でしたが、この値はスレッショルドではなくH/Lの切換え時にサージが出ているためと思われます。この現象のため、Out出力はH時間が無い鋭いとげ状波形になったと考えます。
$V_f=10V$ |
LT1364
スピードアップコンデンサとプルダウン抵抗つきの回路なので、前項で示したLT1364のシミュレーションよりも2倍ほど高い発振周波数になっています。実験結果でもサチュレートすることもなく、シミュレーションの70%程度の周波数になっています。
1Vまで発振しないのは、両電源のLT1364を単電源で使った影響と思います。
$V_f=1.0, \, 1.4, \, 10V$ の3ケースでのオシロ波形を載せます。紫:$V_f$、水色:S端の三角波、黄色:Out矩形波出力です。
$V_f=1.0V$ では三角波が乱れており、$V_f=1.4V$ でそれが治まります。スレッショルドは$V_{TH}=8V$, $V_{TL}=4.8V$ と電圧(発振周波数)によらずほぼ一定です。そのため、Out出力は電圧が高くなっても矩形波が崩れません。
$V_f=1.0V$ |
$V_f=1.4V$ |
$V_f=10V$ |
$V_f=1.0, 10V$ での発振周波数の比率は、$\cfrac{46.3}{1.61}=28$倍です。
同じ制御電圧で実験がシミュレーションよりも発振周波数が低い原因は、H/Lスレッショルドによるヒス幅の違いにあると考えています。LT1364のシミュレーションでは制御電圧によらずほぼ2.1Vのヒス幅です。一方、実験では上記のオシロ波形に示すようにヒス幅は3.2~3.4Vです。コンデンサC1への充放電時間はヒス幅が大きいと長くなります。$\frac{2.1}{3.2}=0.65$ は上記グラフの比率$0.75$ と似ています。
まとめ
- LM358では9倍(0.2V, 649Hz から 10V, 6.25kHz )
- LT1364では28倍(1V, 1.61kHz から 10V, 46.3kHz)