オペアンプ版の簡易なVCOを自作してみる

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labelLTspice labelVCO label発振器

目次
  1. オペアンプ版
    1. 積分器
    2. ヒステリシスコンパレータ
    3. リセット回路(NPNトランジスタ)
    4. 計算式とシミュレーション
    5. トランジスタのスイッチング改善
    6. オペアンプの効果
  2. 実験
    1. LM358
    2. LT1364
    3. まとめ

オペアンプ版

LM358のちょっと古いデーターシートには下図のVCOが載っています。有名な回路のようです。前報のシュミットトリガ版のケース1と同様にバリキャップを使わず、抵抗を流れる電流の大きさがVCO周波数に関係するみたいです。


この回路は前段の積分器と後段のコンパレータで構成されています。この回路の動作について、自分なりに理解したことをまとめます。

積分器

オペアンプの非反転入力が電源電圧VfV_fの1/2になっていることが一般的な積分回路と異なります。動作を理解するためにシミュレーションを行いました。
  1. オペアンプのイマジナリーショートの特性より、反転、非反転入力の電圧は等しくVB=VC=Vf2V_B=V_C=\cfrac{V_f}{2} である。(1V)
  2. 時刻t=0 において、コンデンサC1の電荷がゼロならば、ここの電位差はゼロVなので、オペアンプ出力Vs=Vf2V_s=\cfrac{V_f}{2} である。(1V)
  3. チャージ工程:抵抗R4がグランドに落ちていないとき(=引用元 図8-16 のnpnがオフのとき)、抵抗R1を流れる電流はC1をチャージする。
  4. C1に電荷が溜まって行き電位差が生じるが、オペアンプの非反転入力VC=Vf2V_C=\cfrac{V_f}{2} のため、出力VSV_S はスイッチがON(npnがオン)になるまで相対的に下がる。(t=6ms, 1V → 0V)
  5. 時刻t=6ms において、スイッチがONすると抵抗R4はグランドにつながり電流が流れる。このときの電流値はIR4=2IR1I_{R4}=2 \cdot I_{R1} である。(IR4=20μA,   IR1=10μA,I_{R4}=20 \mu A,\;  I_{R1}=10 \mu A,) 不足する電流はC1からの放出で補われる。(IC1=10μAI_{C1}=10 \mu A)
  6. このとき出力VSV_S はスイッチがOFF(npnがオフ)になるまで相対的に上がる。(t=12ms, ≃0V → 1V)

コンデンサへのチャージ前後の電位差をΔVC\Delta V_C とするとき、チャージ時間T は次式で表せます。

T=2C1R1ΔVCVVf(3) T=2C_1R_1 \cfrac{\Delta V_C}{V_{Vf}} \tag3

ディスチャージ時間もチャージ時間と同じなので、周期は 2T2T になります。

ヒステリシスコンパレータ

コンパレータの計算はRHOMのApplication Note 「コンパレータのヒステリシス設定について 」に詳しく説明があります。下図はその抜粋です。
R1=R2R_1=R_2 の場合には、ヒステリシス幅は次式になります。
ΔVth=aR3(VOHVOL)=R1R1+2R3(VOHVOL)=11+2R3R1(VOHVOL)(4) \begin{aligned} \Delta V_{th} &= \cfrac{a}{R_3}(V_{OH}-V_{OL}) \\ &=\cfrac{R_1}{R_1+2R_3}(V_{OH}-V_{OL}) \\ &=\cfrac{1}{1+2\cfrac{R_3}{R_1}}(V_{OH}-V_{OL}) \tag4 \end{aligned}
ここで、コンパレータの出力電圧は、HかLのスレッショルド値であり、VOHV_{OH}:High出力電圧 VOLV_{OL}:Low出力電圧です。

この(4)式より、ヒス幅を大きくするにはR1R_1 を大きくするか、R3R_3 を小さくすることだとわかります。積分器でのCR時定数が同じ場合、ヒス幅を大きくすればそれだけ充放電時間を要することになり、発振周波数を低くできます。


リセット回路(NPNトランジスタ)

リセット回路は、ヒステリシスコンパレータの出力に応じて 2 つのことを行い発振します。
  • トリガーの出力が High の場合、NPNトランジスタがオンになります。
  • トリガーの出力がLow の場合、NPNトランジスタ はオフになります。

計算式とシミュレーション

積分器とヒステリシスコンパレータをつなげると、チャージ時間とディスチャージ時間はともに同じで、ΔVC\Delta V_CΔVth\Delta V_{th} に書き換えて

T=2C1R1ΔVth VVf(3’) T=2C_1R_1 \cfrac{\Delta V_{th} }{V_{Vf}} \tag{3'}
で表せます。したがって、VCO周波数は(5)式になります。
Freq=12T(5)Freq=\cfrac{1}{2T} \tag5
ここで、抵抗の符号を下図の符号に合わせて書き換えると、ヒス幅ΔVth\Delta V_{th} は、
ΔVth =R5R5+2R7(VOHVOL)=11+2R7R5(VOHVOL)(4) \begin{aligned} \Delta V_{th}  &=\cfrac{R_5}{R_5+2R_7}(V_{OH}-V_{OL}) \\ &=\cfrac{1}{1+2\cfrac{R_7}{R_5}}(V_{OH}-V_{OL}) \tag4 \end{aligned}



下記にLTspiceでシミュレーションしたVf=1[V]V_f=1[V] での時刻歴波形と右側にVCOグラフ(制御電圧VfV_f と発振周波数の関係)を示します。

計算式で求めた値と比較すると表のようになります。あまり一致しているとは言えません。原因と考えられるのはヒス幅が異なることです。勾配(slope) は比較的近い値です。
このとき、コンパレータの出力電圧は、VOHVOL=10.5[V]V_{OH}-V_{OL}=10.5[V] ← 12-1.5(のオペアンプ動作電圧) で計算しています。

制御電圧 1V での比較
計算式シミュレーション
ヒス幅 ΔVth [V]2.133.22Vh:7.41 Vl:4.19
チャージ時間 T [us]85.2141.0
slope [V/ms]25.022.9
周波数 [kHz]5.873.68


トランジスタのスイッチング改善

スピードアップコンデンサとプルダウン抵抗を追加して、トランジスタの応答性改善の効果を見ます。

下図に示すように、1000pF と10kΩ の組み合わせで最良の効果を得ることができます。



オペアンプの効果

オペアンプを変えたときの改善の効果もシミュレーションしてみます。LM358は単電源ですが、TL072とLT1364は両電源に回路電源の変更をしています。前項のスピードアップコンデンサとプルダウン抵抗は未適用です。

LM358が電圧が高いと周波数がサチュレートしているのに比べて、TL072とLT1364はリニアに伸びています。特にLT1364はLM358よりも周波数可変範囲が3倍あるという結果です。


下図はQC Connect の記事「OPアンプのオープン・ループ・ゲインと周波数特性」で紹介されている回路を使って、3つのオペアンプの周波数特性を比較したものです。VCO周波数の結果と重ねると、周波数特性の良いオペアンプほど、VCOのリニアリティが良いという結果になります。
10kHzでくらべると、LM358はLT1364よりも40dBゲインが低いです。この結果から考えられるのは、LM358は応答していないので周波数に対してのサチュレートが出ていると言えそうです。


実験

ブレッドボードで回路を組んで特性を測定しました。スイッチング改善のスピードアップコンデンサとプルダウン抵抗を入れています。分圧抵抗はすべて47kΩにしました。


素子Simulation実測_measure備考
R1 [Ω]20k19.7kB35T
R2 [Ω]47k46.2kB35T
R3 [Ω]47k46.2kB35T
R4 [Ω]10k9.9kB35T
R5 [Ω]47k46.3kB35T
R6 [Ω]47k46.7kB35T
R7 [Ω]100k98.5kB35T
R8 [Ω]10k9.9kB35T
R9 [Ω]10k9.9kB35T
C1 [F]0.001u(1000p)1090pLC100-A
C2 [F]1n(1000p)1018pLC100-A

LM358

シミュレーションと実験を下図で比較します。実験ではシミュレーションの1/2以下の発振周波数となりました。この傾向は制御電圧(発振周波数)が高いほど顕著で、高周波数でサチュレートしています。さらに、9V, 6.8kHzがピークで、それ以上電圧を上げると逆に周波数が下がります。

0Vから電圧を上げていったときに発振を始めたVf=0.210VV_f=0.210VVf=10VV_f=10V の2ケースでのオシロ波形を載せます。紫:VfV_f、水色:S端の三角波、黄色:Out矩形波出力です。

Vf=0.210VV_f=0.210V で649Hzあたりから発振を始めます。三角波から読み取ったスレッショルドはVTH=8.0VV_{TH}=8.0V, VTL=4.8VV_{TL}=4.8V でした。


Vf=0.210VV_f=0.210V

Vf=10VV_f=10V での発振周波数は 6.25kHz でした。前条件との比率は6.25k649=9\cfrac{6.25k}{649}=9倍です。

Vf=10VV_f=10V では出力が応答できておらず、Out出力は矩形波ではありません。この傾向は前条件の発振初期でも台形状の波形として見られます。kHz域の出力には向いていません。

オシロで測定されたスレッショルドはVTH=14.0VV_{TH}=14.0V, VTL=1.0VV_{TL}=-1.0V でしたが、この値はスレッショルドではなくH/Lの切換え時にサージが出ているためと思われます。この現象のため、Out出力はH時間が無い鋭いとげ状波形になったと考えます。

Vf=10VV_f=10V

LT1364

オペアンプをLT1364に変更した実験を行いました。LT1364はスルーレートが 1000V/μs と高速なオペアンプです。オペアンプ以外はLM358の回路と同じで、LT1364を単電源で動かしています。

スピードアップコンデンサとプルダウン抵抗つきの回路なので、前項で示したLT1364のシミュレーションよりも2倍ほど高い発振周波数になっています。実験結果でもサチュレートすることもなく、シミュレーションの70%程度の周波数になっています。

1Vまで発振しないのは、両電源のLT1364を単電源で使った影響と思います。


Vf=1.0,1.4,10VV_f=1.0, \, 1.4, \, 10V の3ケースでのオシロ波形を載せます。紫:VfV_f、水色:S端の三角波、黄色:Out矩形波出力です。

Vf=1.0VV_f=1.0V では三角波が乱れており、Vf=1.4VV_f=1.4V でそれが治まります。スレッショルドはVTH=8VV_{TH}=8V, VTL=4.8VV_{TL}=4.8V と電圧(発振周波数)によらずほぼ一定です。そのため、Out出力は電圧が高くなっても矩形波が崩れません。

Vf=1.0VV_f=1.0V

Vf=1.4VV_f=1.4V

Vf=10VV_f=10V

Vf=1.0,10VV_f=1.0, 10V での発振周波数の比率は、46.31.61=28\cfrac{46.3}{1.61}=28倍です。

同じ制御電圧で実験がシミュレーションよりも発振周波数が低い原因は、H/Lスレッショルドによるヒス幅の違いにあると考えています。LT1364のシミュレーションでは制御電圧によらずほぼ2.1Vのヒス幅です。一方、実験では上記のオシロ波形に示すようにヒス幅は3.2~3.4Vです。コンデンサC1への充放電時間はヒス幅が大きいと長くなります。2.13.2=0.65\frac{2.1}{3.2}=0.65 は上記グラフの比率0.750.75 と似ています。

まとめ

制御電圧を10Vまで変化させたとき、周波数の可変倍率(最大周波数/最小周波数)でみると次のようになります。
  • LM358では9倍(0.2V, 649Hz から 10V, 6.25kHz )
  • LT1364では28倍(1V, 1.61kHz から 10V, 46.3kHz)
今回検討した10kHzまでの周波数帯域では、LM358は応答できていませんでした。



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