12V版のDC-Yarrowもどきでシミュレーション

published_with_changes 更新日: event_note 公開日:

labelAudio labelLTspice

ACアダプターのノイズフィルターを作ろうとWebを徘徊しているとき、DC-ArrowやDC-Yarrowとかいうものに目がとまりました。DC-ArrowはRaspberry piへの電源基板で、負荷に左右されないnon-NFB定電圧回路(出力インピーダンス約200mΩ)だそうです。電源にはトロイダルトランスを使います。DC-Yarrowは、電源をスイッチング電源のACアダプターに変更して、コモンモードチョークコイルと3端子レギュレータをDC-Arrowの前段に追加したもののようです。基本はRaspberry pi用の5V出力ですが、12V版を紹介しているブログもありました。

NO-NFBアンプの音の特徴は
  1. 奥行き感が出る。
  2. 人の声のサ行が荒れなくなる。
  3. 細かい音まで聞こえる。

という点のようです。ならば、この間ノイズを測定してノイズのすごさにびっくりしたLepy アンプの電源用に12V版のDC-Yarrowもどきを作ってみようと思います。

作る前にLTspiceのトレーニングを兼ねて、シミュレーションで色々遊んでみることにしました。

自己流改造の要点

ACアダプター電源にする場合には、フロントレギュレータで3V落として、DC-Arrowでさらに3V落とす設計とのことで、12+3+3=18VのACアダプターが必要になります。フロントレギュレータの役割は、①コモンモードチョークコイルと電解コンデンサでノイズを低減させることと、②3端子レギュレータで所定の電圧を生成させることと書いてありました。

3端子レギュレータ

自己流DC-Yarrow用(以下、DC-Yarrow_MOD)のACアダプターとしてはWii U用の15V出力品を使います。ですが、3端子レギュレータを使うと12Vの出力には電圧が足りなくなるので、これは省略するつもりです。Wii U用の15Vアダプターはノイズリップルが結構小さいので、それに期待します。

3端子レギュレータの役割は入力リップルの低減と出力の安定化だと思うので、それをシミュレーションで見てみます。入力に乗せるリップルは大きくして効果を見ます。

リップル低減

図1の回路で検討します。3端子レギュレータはLM338Tと同等のLT1085(max3A)を使います。入力電圧は10msecで所定の電圧に立ち上がり、図2のノイズを模擬した100Hz 200mVp-pのノコギリ波を重畳させました。

図1 入力リップルの低減効果

図2 重畳させたノコギリ波

出力電圧が12Vになるように、R2/R1 = 8.6倍にしています。

$\begin{aligned} V &=1.25 \times\left(1+\frac{R 2}{R 1}\right)&=1.25 \times(1+8.6) &=12 \end{aligned}$

図3の下段のグラフは15Vの入力(赤色)に対して、R1を100Ωから50Ωずつ増やしながら3端子レギュレータの出力を見ています。R1が200Ωまでは12Vに収束しますが、興味深いのは、理由はわかりませんが200Ωを超えると14Vに収束になります。このとき、分圧抵抗R1での電圧降下を見ると250Ωまでは基準電圧の1.25Vくらいですが、それを超えると電圧降下が跳ね上がります。図4は図3の85ms付近の拡大です。リップルも出ています。10Ω刻みで調べたら240Ωが12V収束の上限でした。なお、後から見たのですがLT1085のデータシートには100~120Ωが推奨されていました。

図3 3端子レギュレータの出力電圧とR1抵抗分圧

図4 3端子レギュレータの出力電圧とR1抵抗分圧(拡大)



3端子レギュレータ出力では、リップルは入力に対しては低減していますが、5mVp-pほどは残っています。入力200mVp-pに対してこの値ですので-30dBになります。このリップルは出力側に平滑コンデンサを入れれば取り除くことができます。

図5は上段が15V入力側、下段が出力側でR1<200ΩとしたときのFFT結果です。すなわち、上段が3端子レギュレータがないとき、下段が3端子レギュレータがあるときの結果に相当します。

図5 3端子レギュレータ入力側と出力側のFFT

リップル低減(コモンモードコイルと3端子レギュレータの影響)

図1の回路構成を基準にして、ノイズ低減用のコモンモードコイルを追加した場合とその上で3端子レギュレータを省いた場合でシミュレーションしてみます。これ以降の検討は分圧抵抗R1=220Ωで固定しました。

コモンモードコイルを入れると、入力よりも大きな振動が発生し出力は発振的になりました。3端子レギュレータをなしにした方がこの発振は小さくなっています。

図6 上段:基準 中断:コモンモードコイル追加 下段:3端子レギュレータなし

図7 下段:基準 中断:コモンモードコイル追加 上段:3端子レギュレータなし

図8 同上のFFT結果(下段:基準 中断:コモンモードコイル追加 上段:3端子レギュレータなし)

この振動は出力に470uFの平滑コンデンサを入れると収まりました。(図9)
図9 コンデンサ追加(下段:基準 中断:コモンモードコイル追加 上段:3端子レギュレータなし)

出力の安定化

入力電圧は15V一定にしておいて、出力側を0.2secごとに22Ωの抵抗へ流れる550mAの電流を瞬間的にON/OFFさせるという図10に示す回路の設定で、3端子レギュレータの出力電圧を見ました。図11がその結果です。出力の平滑コンデンサが無い(1pF)条件だと、電流のON/OFFの瞬間にサージ的な出力電圧の変動が起きますが、これを吸収するわずかの容量(10uF)のコンデンサがあると、サージは発生しないようです。

図10 出力の安定化を見る

図11 出力側で電流を瞬断したとき

出力の安定化(コモンモードチョーク追加)

図10の回路に対して、3端子レギュレータの上流にコモンモードコイル(5.8mH, 0.082Ω)を入れてみます。また、平滑コンデンサは10uFからDC-Arrowの8200uFにアップしています。

図12 コモンモードチョークの有無

コモンモードコイルを入れると、電流のON/OFF(回路を流れる電流の有無)に対して、その変化を元に戻そうとコイルが作用します。その結果、3端子レギュレータの出力は電流のON/OFFに呼応して乱れます。ADJ端子(黄色、緑色)にもその影響が出ています。

図13 コモンモードコイルの影響

出力の安定化(3端子レギュレータ撤去)

図14 3端子レギュレータを撤去

出力側で電流をON/OFFさせると、3端子レギュレータの有無に関わらず、コモンモードコイルの2次側まで影響し電圧が変動しています。(図15の最下段グラフ)

出力電圧の安定具合について見てみます。前述したコモンモードコイルの影響は3端子レギュレータが無い場合に顕著で、発振が起きています。この発振は出力部の平滑コンデンサへ流れ込む電流にも影響しています。

このシミュレーションはOFFの時は電流がまったく流れていないという計算条件ですので、実際にはありえない過酷な条件になります。現実的なケースとして出力側に6Ωの負荷抵抗を置き25W出力としたときのシミュレーションを図16に示します。この条件だと、ONのときには2.5A、OFFのときには2.0Aの電流が流れています。3端子レギュレータが無くても、前述のケースで見られた出力部の発振はわずかで、すぐに収束しています。

図15 3端子レギュレータの有無

図16 負荷に相応の電流が流れるとき(3端子レギュレータなし)

まとめ;3端子レギュレータを省いたら

3端子レギュレータが入力リップルの低減と出力の安定化に効果があることがシミュレーションで検証できました。

コモンモードコイルはコイル本来の特性のため、入力リップルの低減と出力の安定化に不利に働きますが、高周波ノイズの低減には欠かせません。これにより発生する発振や振動は、3端子レギュレータを省いても適切な容量のコンデンサなどで低減させることができると思います。


DC-Yarrow_MODのシミュレーション

コモンモードチョークコイルを入れるのと12V化を行ったうえで、3端子レギュレータを省略をしたDC-Yarrow_MODで同様なシミュレーションをしてみます。回路と各種パラメータは図17です。DC-Arrowの出力が12Vになるようにパラメータを決めました。3端子レギュレータの有無で比較するのと、ノイズフィルターの解析はノーマルモードとコモンモードで行います。

図17 ノーマルモード 3端子レギュレータ有り:上段 なし:下段

図18 コモンモード 3端子レギュレータ有り:上段 なし:下段


周波数特性

見やすくするため重ね書きはしていませんが、周波数特性は3端子レギュレータの有無によらず同じでした。100Hzほどの周波数にピークを持ち、-40dB/decadeでゲインが下がります。ノーマルモードとコモンモードではノーマルモードが低減度合いが大きいですが、減衰特性はともに-40dB/decadeで同じです。
図19 DC-Yarrow_MODの周波数特性

入力リップルの低減(LPF特性)

15V±100mVのノコギリ波入力が、出力側でどうなるのかをシミュレーションしました。ノーマルモードで0.13mVp-p  (-64dB)、コモンモードで0.26mVp-p  (-58dB)となりました。

図20 リップル低減の効果

FFTで見たときも同じく60dB程度の低減効果があり、ノーマルモードの方がコモンモードよりもやや低減度合いが大きいという同じ傾向でした。

図21 リップル低減の効果 FFT

出力の安定性

出力側で0.2secごとに電流をON/OFFさせる回路構成にして、3端子レギュレータの有無で出力の安定性を見ます。出力電圧が12V同じになるように入力電圧は調整しました。ON/OFFさせる電流は定常時の2Aに対して、2.2Aになるように抵抗を調整しました。

図22 出力の安定性評価回路

電流のON/OFF時発生するサージ電圧は、レギュレータの有無での違いは無くどちらも1.2V程度でした。

図23 電流のON/OFF時発生するサージ電圧

出力インピーダンス

出力インピーダンスをLTspice上でどうやって計算するのかわからないので、単純に「電流の変化に対する電圧の変化」としてLTspiceで計算することにします。具体的にはDC-Yarrow_MODへの入力は一定電圧にしておいて、負荷側に電流源を置きAC解析することにします。負荷側の電流が交流で時々刻々変化するので、出力電圧もそれに応じて変化することになります。したがって、微分しなくても出力電圧/交流電流で「電流の変化に対する電圧の変化」になっていると思います。

DC-Arrow

DC-Yarrow_MODでシミュレーションするに先立ち、DC-Arrowでシミュレーションしてみます。

出力インピーダンスは「電流源を流れる電流に対する電流源にかかる電圧」とします。その結果は図24の赤色線で示します。周波数が上がるにつれて0Ωに漸近するような特性になりました。基準として1kHzで見ることにします。青色のグラフは直流に整流された電圧に対する負荷の電圧を示しています。DC-Arrowのパラメータ規定値では200Hzを超えたところにピークを持ちます。

図24 DC-Arrowでの出力インピーダンス

DC-Yarrow_MOD

同じやり方でDC-Yarrow_MODをシミュレーションしてみます。3端子レギュレータの有無で比較してみましたが、違いはほぼありませんでした。(図25 レギュレータあり:赤 なし:青)ただし、特性は数十Hzから数kHzにかけて山を持ち、高周波で0Ωに漸近するような特性です。

電流はAC 1Aで一定なので、インピーダンス特性は出力部での電圧特性が出ていると言えます。下段のグラフはコモンモードコイルの影響を除いて観察するため、コイルの2次側電圧に対する出力電圧を示しました。周波数に比例して出力ゲインが上がる特性です。

図25 DC-Yarrow_MODでの出力インピーダンス

数値比較

DC-Arrow
DC-Yarrow_MOD
レギュレータありレギュレータなし
出力インピーダンス [mΩ] @ 1kHz
3399552
出力部分には10Ω抵抗を併設している

まとめ

3端子レギュレータは入力リップルの低減に効果があります。出力の変化に対する安定性についてと出力インピーダンス大きさについては3端子レギュレータの有無で顕著な差異は認められませんでした。

Powered by Blogger | Designed by QooQ

keyboard_double_arrow_down

keyboard_double_arrow_down