違いを聴き分ける耳を持っている訳ではないのですが、耳学問は達者な方です。工作のトライ用にも含めてLepyのアンプを何種類か持っており、ACアダプターもいくつか持っています。聞くところによると、ACアダプターはスイッチングノイズがあり、それが音に影響する云々。
ノイズを専門的に捕えれば、ものすごく難しくて大変な領域ですし、個人レベルでそれを測定できるものではありません。ACアダプターの出力電圧に乗っているノイズについて、あくまでも簡易的な考えと測定方法でその条件下だけでの比較を行ってみようと思います。
ノーマルモードの電源ノイズ
ノイズの伝搬経路による分類
引用元:EMC村の民 スイッチング電源のノイズ対策を考えるノイズには「ノーマルモード」と「コモンモード」の2種類のノイズが存在します。
スイッチング電源においては、ノーマルモードノイズは電源線の「L-N間」、コモンモードノイズは「LとN-E間」に流れるノイズです。
言葉にすると分かりづらいので、図で見てみましょう。
ノイズ対策の部品は、それぞれのノイズの流れ方ごとに作用するので、まずノイズのモードを見極めなければ、ノイズ対策の効果が得られないということがわかります。
測定方法
実使用条件に近づけるため、負荷に8Ωのグラッド抵抗を2つ直列につなぎ16Ωとしました。実測で0.7A程度の電流が流れている条件になります。それと負荷に並列に1000μFでESRは0.24Ωの電解コンデンサを配置します。また、電流検出用に0.1Ωのグラッド抵抗を負荷の下流に入れました。
ACアダプターの出力はDCジャックなので、それに合わせてメス側プラグを設けました。メスDCプラグのできるだけすぐそばにオシロのプローブを繋ぎます。ノーマルモードのノイズを測定しようとしての構成です。
DCプラグでACアダプターを抜き差しすることで、配線の長さや位置関係などを含めて他の条件は一定にしたまま、ACアダプターだけを変更して測定ができます。
ただし、やってみると、測定値の再現性の点で結構大変です。何日かかけて、測定に影響を与える要因を探しそれを対策しました。結構、測定データの再現性が高まりました。測定のはじめと終わりにACアダプターを繋がない条件で測定しましたが、ほぼ同じ値を再現できました。
測定条件
- 時間軸:200ns (基準条件)
- FFTモード
- 測定値:オシロで表示されるピーク to ピーク 電圧
- 負荷抵抗:16Ω (プローブ位置で約18Ω)
- 電流:0.4~0.9A (アダプターの出力電圧による)
- 平滑用のコンデンサの有無
試料
測定結果
1000uFつき
まずは電源なし条件の波形を示します。電圧軸は最大の5mV/divです。時間軸は色々動かしてみましたが、ノイズレベルは変わりませんでした。少し変動があるのですが、最大でも10mVp-pを下回ります。
電源なし |
Wiiの12Vアダプターは結構ノイズが乗っていると思います。60k, 130k, 270kHzと低周波からノイズが出ています。すぐ下に載せたWii Uもそうなのですが、スパイク状のノイズ波形です。
Wii |
Wii Uの15Vのものです。他のアダプタと比較して相対的にノイズが小さいです。12Megと18MegHzにピークがありました。
Wii U |
以前、家にあったヤマハのキーボード用だと思うアダプターです。ノイズレベルは22mVと小さい部類ですが、65k, 130k, 270k, ...650k, 7Meg, 12Meg, 18Meg, 45Meg, 90Megのピークを読み取ることができました。
Yamaha |
FujistuのPC用だと思います。12V/3A出力だったのでHard Offで入手しました。今回測定した中ではピーク値で見たノイズが一番小さいですが、上記に載せた他のアダプターと比較して波形で見れば波が大きいです。70k, 135k, 13Meg, 51MegHzにピークが出ていました。
Fujitsu |
KtecはACアダプターの中国メーカのようです。これはDAC(FX-AUDIO-DAC-SQ5J)用の電源なのですが、他と比較するとノイズが多めでした。電圧軸を2倍の10mV/divにしています。波形はFujitsuと似ています。キャプチャしたタイミングで38mVでなっています。50kを1次として、7次までピークを読み取りできました。また、7Meg, 17Megもピークがありました。
Ktec |
Let's Note用のACアダプターです。時間波形を見るとのこぎり波が顕著に出ています。のこぎり波の特徴で110kHzから、2次、3次、...と高次成分まできれいに周波数のピークが並びました。さらに、16Meg, 23Meg, 48Megに周波数ピークがみられます。ノイズレベルも52mVとそれなりに大きいです。
Pana PC |
次にIBM PC用の15V出力のアダプターです。自作のサブウーファアンプに利用しています。波形の形は上記のPanasonic Let's Note用と同じでのこぎり波です。ピーク周波数もほぼ同じでした。
IBM PC |
このものは素性はわかりません。12Vと5Vの2種類の電圧が出力できるACアダプターです。これものこぎり波です。1次周波数は160kHzでした。さらに、18MegHzにピークを持っていました。ノイズのレベルは結構大きいです。
JHS-Q05/12 |
Lepyの2020A+とか2024A+などを複数持っているのですが、付属のACアダプターによってはものすごくノイズレベルの高いアダプターがありました。すぐ下の図(BK1205AP)の電圧軸は20mV/divですが、残りのGM1205とBYM-118は200mV/divでキャプチャしています。ざっくり言って、他のアダプターの10倍のノイズが出ています。もちろん、今までそのアダプターで駆動したアンプの音が気になったとかいうことはありません。
でも、電源電圧12Vの15%も、8Megとか19MegHzで電圧が変動しているとなると、音よりも耐久性が気になってきます。
BK1205AP |
GM1205 |
BYM-118 |
トランス式のアダプターはこの測定条件だと、ものすごく小さなノイズですが、条件を変えると大きな電圧変動が出ているのが分かります。測定基準は200ns刻みで見たのですが、それを10ms刻みにすると、大きな電圧返送が見えてきます。この周波数は120Hzなので交流60Hzの2次の周波数にあたります。ただし波はきれいな波形なので、ノイズになることは無いといえます。
ZooM trans |
ZooM trans(10ms刻み) |
OKI trans |
OKI trans(10ms刻み) |
日本ブランドのものはノイズが少ないです。ただし、なかには中国製で日本メーカブランドのものもあります。日本メーカの要求スペックが高く、それに添って設計/生産されているということだと思います。
平滑コンデンサなし
平滑コンデンサなしでも測定してみました。当然の結果ではありますが、コンデンサありよりもノイズは大きいです。各ACアダプター間でのノイズの大きさの序列は変わりません。各々のアダプターで発生するノイズのピーク周波数も同じです。
まとめ
測定して大きなノイズが乗っていることを目で見てしまったら、それが気になりだしました。特にLepyアンプ用のACアダプターは使うのが嫌になりました。とりあえずはノイズの低いアダプターに変更しようと思います。
それから、スイッチング電源用の出力側につけるフィルターを検討してみようと思っています。
細かく見ればACアダプターによってノイズ波形の周波数や振幅に違いがありますが、ざっくり言えば、6~100MHzの高周波ノイズが出ています。振幅は20~800mVp-pといったところになると思います。また、のこぎり波状のノイズ波形が出るものは110kHzの1次成分を元にして数百kHzまで高次成分が続いています。
測定したのはノーマルモードですが、コモンモードも同じようにノイズが出ていると予想します。Googleで調べるとコモンモードチョークを使うと両方のモードに効くフィルターが作れそうなことが分かりましたので、これを検討しようと思います。