ACアダプターのノイズフィルターをシミュレーション

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 ACアダプターのノイズを測定したら、フィルターを入れたくなりました。コモンモードチョークコイルを使うと、基本はコモンモードのノイズのフィルターなのですが、磁束漏れがあってノーマルモードのノイズにも有効なようです。

秋月電子で取り扱いがあるので、コモンモードチョークコイルを使ったローパスフィルターを作ろうと思います。その前に、この課題を十分楽しむためにLTspiceでシミュレーションをしてみます。

モデルを探します

コモンモードチョークコイル

100MHzの同相ノイズをコモンモードチョークコイルで低減させるLTspiceの計算例が下記のブログに載っていましたので、これを利用します。

コモン・モード・チョーク・コイルの特性

コモン・モード・チョーク・コイルの特性

コモン・モード・チョーク・コイルは,同相ノイズを低減するために使用されるもので,同一のコアに2本の線材を巻いた構造になっています.それぞれの線材がL1およびL2を構成しています.

フィルターモデル

ここに代表的なフィルター回路が示されていましたので、利用させていただきます。


スイッチング電源のノイズを減らす - Tachi technical blog

スイッチング電源のノイズを減らす - Tachi technical blog

半導体アンプを作ろうと思っているのだけど,スイッチング電源でなんとかしたいと思っています.そこで簡単なフィルタを組んで實驗してみました. 回路はこんな感じ…


仕様を考える

仕様

測定結果を細かく見ればACアダプターによってノイズ波形の周波数や振幅に違いがありますが、ざっくり言えば、6~100MHzの高周波ノイズが出ています。振幅は20~800mVp-pといったところになると思います。また、のこぎり波状のノイズ波形が出るものは110kHzの1次成分を元にして数百kHzまで高次成分が続いています。そこで、フィルターの特性を次のように考えました。
  • ノーマルモードの減衰量が大きい事。ノイズをなしにしたいので、100kHzで80dB
  • コモンモードの減衰量も1MHzで35dBくらいはある事。

周波数特性

下図のモデルで周波数特性を計算してみます。上段がコモンモード特性で、下段がノーマルモード特性です。

L1, L2はコモンドチョークコイルで秋月扱い品の値にしました。(・インダクタンス:5.8mH以上・直流抵抗:0.082Ω±20%・定格電流:2.7Arms)

L5は引用元では115uHですが、22uHの手持ちがあったのでそれを利用します。

フィルターモデル 上段:コモンモード 下段:ノーマルモード

引用元はピンクの特性です。22uHのコイルを使って、これと同等の青の特性にします。



コモンモードの特性も計算しておきます。赤色で示します。

フィルター特性 ノーマルモード:赤色 コモンモード:青色

ノーマルモード(青色):-116dB@100kHz, fc = 3.4kHz
コモンモード(赤色):-57dB@1MHz, fc = 1.4kHz

ノーマルモードフィルターを入れたスイッチング電源出力の様子

スイッチング電源モデル

ここにあるスイッチング電源ライブラリーを利用します。230V入力で出力12V, 60Wのモデル( Flyback_FWR_ACDC_230Vi_60W_12Vo.zip)を選びダウンロードしました。

LTspice®の回路モデルをサポート

LTspice®の回路モデルをサポート

スイッチング電源回路ライブラリーは各種PFC,フライバック、ハーフブリッジ、バックコンバーターなどの基本的なトポロジーに関してLTspice®XⅦ以降のバージョンで動作するシミュレーション回路を準備しています。お客様のシミュレーション環境に合わせ、各回路をダウンロードできます。


丁度良い具合に100kHzからノイズが出ています。モデル出力部の平滑コンデンサを調整して、130mVp-pのノイズ振幅が出るようにしました。それに対して1000uFのパスコンを追加すると13mVp-pになりました。

時間軸

時間軸波形をFFT解析します。青色は1000uFを追加したものです。1次成分を100kHzとして高次成分が続く状況が分析できています。この条件にフィルターを働かせてみます。

FFT解析


フィルターを入れた特性

フィルターを追加したSW電源 LTspiceモデル

フィルター前後の時間軸波形を示します。フィルター手前が青色、後が赤色です。フィルターによりノイズ振動がきれいになくなっています。FFT解析でも同様です。

中心値にずれがあるのは、解析に時間がかかるのでほどほど収束したところで計算を打ち切ったためです。

フィルターの有無 時間軸 ノーマルモード

フィルターの有無 FFT解析 ノーマルモード

コモンモードフィルターを入れたスイッチング電源出力の様子

スイッチング電源入力モデル

コモンモードフィルターのモデルは、上記に示した下段にしました。解析上の問題なのかわからないのですが、波形にスパイクが出ていましたので出力部に0.01uFのパスコンを追加しました。このパスコンによってスパイクをきれいに消すことができました。

青色の入力に対して、フィルター後は緑色です。フィルターがコモンモードで効いているのが分かります。コモンモードではスイッチング電源ノイズの1次成分の100kHzから高調波成分が残ります。

フィルター特性 時間軸 コモンモード:緑




仮想入力モデル

冒頭に示したコモン・モード・チョーク・コイルの特性に出ているモデルでもシミュレーションしてみます。ノイズの代用に高周波の正弦波を与えて、フィルターを通したときの様子を見てみます。

引用元の説明をそのまま引用します。

下図は,コモン・モード・チョーク・コイルによる,同相ノイズ除去効果を検証するための回路です.

 上段が対策前で,下段が信号ラインにコモン・モード・チョーク・コイルを挿入した対策後です.VPとVMはピーク電圧100mVで周波数は100MHzとなっています.VCが同相ノイズで,ピーク電圧100mVで周波数は200MHzになっています.トランジェント解析を行い,浮遊容量に流れる電流の大きさを比較します.



同相の信号入力した時に、①コモンモードフィルターがない状態で基準にして、②コモンモードフィルターありの状態と、さらに③22uFのコイルでローパスフィルターを構成した場合を比較します。

評価する因子は、浮遊容量(C)の上流位置でのピーク電圧と浮遊容量に流れる電流の大きさを比較します。

1kHzでは3ケースとも±100mVのピーク電圧が出ていますが、浮遊容量を流れる同相ノイズ電流はピーク値で①が250nAで②③が320nAと、とても細微な値(ノイズが出ていない状態)です。

100MHzでは、①では±100mVに対して、②③ではほぼ0mVです。コモンモードチョークコイルだけならば減衰は生じないのですが、他のCやLの影響を受けています。浮遊容量に流れる電流については、①の±7mAに対して、②③は±13nAとほぼゼロです。

これらを一括して整理すると、次の図になります。1KHzでの値を基準にdB表示で表しました。緑色の線で示す浮遊容量に流れる電流はCやLといった値を変えても変わりません。それに対して、青色、ピンク色、赤色はフィルタ出力部でのピーク電圧ですが、①②③のフィルタ回路の構成内容によって変化します。




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