ACアダプターのノイズを測定したら、フィルターを入れたくなりました。コモンモードチョークコイルを使うと、基本はコモンモードのノイズのフィルターなのですが、磁束漏れがあってノーマルモードのノイズにも有効なようです。
秋月電子で取り扱いがあるので、コモンモードチョークコイルを使ったローパスフィルターを作ろうと思います。その前に、この課題を十分楽しむためにLTspiceでシミュレーションをしてみます。
モデルを探します
コモンモードチョークコイル
100MHzの同相ノイズをコモンモードチョークコイルで低減させるLTspiceの計算例が下記のブログに載っていましたので、これを利用します。
フィルターモデル
ここに代表的なフィルター回路が示されていましたので、利用させていただきます。
仕様を考える
仕様
- ノーマルモードの減衰量が大きい事。ノイズをなしにしたいので、100kHzで80dB
- コモンモードの減衰量も1MHzで35dBくらいはある事。
周波数特性
下図のモデルで周波数特性を計算してみます。上段がコモンモード特性で、下段がノーマルモード特性です。
L1, L2はコモンドチョークコイルで秋月扱い品の値にしました。(・インダクタンス:5.8mH以上・直流抵抗:0.082Ω±20%・定格電流:2.7Arms)
L5は引用元では115uHですが、22uHの手持ちがあったのでそれを利用します。
ノーマルモードフィルターを入れたスイッチング電源出力の様子
スイッチング電源モデル
ここにあるスイッチング電源ライブラリーを利用します。230V入力で出力12V, 60Wのモデル( Flyback_FWR_ACDC_230Vi_60W_12Vo.zip)を選びダウンロードしました。
丁度良い具合に100kHzからノイズが出ています。モデル出力部の平滑コンデンサを調整して、130mVp-pのノイズ振幅が出るようにしました。それに対して1000uFのパスコンを追加すると13mVp-pになりました。
時間軸 |
時間軸波形をFFT解析します。青色は1000uFを追加したものです。1次成分を100kHzとして高次成分が続く状況が分析できています。この条件にフィルターを働かせてみます。
FFT解析 |
フィルターを入れた特性
フィルターを追加したSW電源 LTspiceモデル |
フィルター前後の時間軸波形を示します。フィルター手前が青色、後が赤色です。フィルターによりノイズ振動がきれいになくなっています。FFT解析でも同様です。
中心値にずれがあるのは、解析に時間がかかるのでほどほど収束したところで計算を打ち切ったためです。
フィルターの有無 時間軸 ノーマルモード |
フィルターの有無 FFT解析 ノーマルモード |
コモンモードフィルターを入れたスイッチング電源出力の様子
スイッチング電源入力モデル
コモンモードフィルターのモデルは、上記に示した下段にしました。解析上の問題なのかわからないのですが、波形にスパイクが出ていましたので出力部に0.01uFのパスコンを追加しました。このパスコンによってスパイクをきれいに消すことができました。
青色の入力に対して、フィルター後は緑色です。フィルターがコモンモードで効いているのが分かります。コモンモードではスイッチング電源ノイズの1次成分の100kHzから高調波成分が残ります。
フィルター特性 時間軸 コモンモード:緑 |
仮想入力モデル
冒頭に示したコモン・モード・チョーク・コイルの特性に出ているモデルでもシミュレーションしてみます。ノイズの代用に高周波の正弦波を与えて、フィルターを通したときの様子を見てみます。
引用元の説明をそのまま引用します。
下図は,コモン・モード・チョーク・コイルによる,同相ノイズ除去効果を検証するための回路です.
上段が対策前で,下段が信号ラインにコモン・モード・チョーク・コイルを挿入した対策後です.VPとVMはピーク電圧100mVで周波数は100MHzとなっています.VCが同相ノイズで,ピーク電圧100mVで周波数は200MHzになっています.トランジェント解析を行い,浮遊容量に流れる電流の大きさを比較します.
同相の信号入力した時に、①コモンモードフィルターがない状態で基準にして、②コモンモードフィルターありの状態と、さらに③22uFのコイルでローパスフィルターを構成した場合を比較します。
評価する因子は、浮遊容量(C)の上流位置でのピーク電圧と浮遊容量に流れる電流の大きさを比較します。
100MHzでは、①では±100mVに対して、②③ではほぼ0mVです。コモンモードチョークコイルだけならば減衰は生じないのですが、他のCやLの影響を受けています。浮遊容量に流れる電流については、①の±7mAに対して、②③は±13nAとほぼゼロです。これらを一括して整理すると、次の図になります。1KHzでの値を基準にdB表示で表しました。緑色の線で示す浮遊容量に流れる電流はCやLといった値を変えても変わりません。それに対して、青色、ピンク色、赤色はフィルタ出力部でのピーク電圧ですが、①②③のフィルタ回路の構成内容によって変化します。