前報で使えるようになったR6451Aですが、Ts DMM Veiwerが動きません。ソフト制作者様に相談申し上げたところ、ご親切に対応いただき本当に頭が下がりました。おかげでシリアル通信がPCとの間で成立しておらず、その原因はR6451Aの故障にありそうということが見えてきました。
原因箇所を特定できた訳ではないのですが、一念発起で写真のRS232CインターフェースICの交換をしてみようと思い立ちました。
症状
デジタルマルチメータに合わせて、Ts DMM Veiwer(以下、Ts Veiwer)の設定を行い”Connect”をクリックします。通常ならすぐに接続されデータの表示が始まるのですが、接続できず右下のRXとTXが交互に点滅し続けるうち、任意の他接続ポートが選択され接続が中断します。
ソフト制作者様にお教えいただいたデバックウインドウには何も表示されません。これは通信プロセスを表示するらしいのですが、何も表示されないのはマルチメータとのシリアル通信が全くできていないという事だそうです。通信が成立している場合はR6552のように表示されます。
従来からR6552でTs Veiwerを使っています。今回の接続できないR6451Aと同じAdvantestのR6シリーズです。通信できているR6552との比較で動作確認とシリアル設定の確認をしました。
両DMMのシリアル設定は全く同じです。設定が同じなのにシリアル通信が成立しないのでR6451Aに問題がありそうという結果になります。
R6451Aのシリアル信号は5本使いです。少なくとも、出力(送信)ができていないので3,4ピンの信号に何かが起きていることになります。
裏面のRS232Cのコネクターから基板までの間でのコードの断線や接触不良であってほしいと考えていたのですが、基板コネクタまで導通は問題ありませんでした。最初に載せた写真のオレンジコネクタが基板側になります。
R6541A分解
アルミフレームから取り出して基板単体の状態にします。以前にはフロントパネルの分離・分解までやったのですが、基板を取り出すのは初めてです。まず、コネクタ2か所とフラットケーブル1か所を外します。次に3本のネジを外して、基板を少し前にずらして、右側にある基板の切り欠き位置にアルミフレームのノッチを持ってきて、下方向へ落とし気味にするとはずれました。
目的のRS232CインターフェースICはオレンジ色のシリアルコネクタの右にあります。”MAX202CWE”という16pinのSOPです。
MAX202CWE(シリアル インターフェースIC)
Datasheetと現物を比較してピンアサインを調べます。Typical Operating Circuitに載っている5個のMLCC(積層セラミックコンデンサ)の場所も確認します。Cxxとの手書きは基板の印刷された刻印の番号です。
Datasheetに載っている各ピンの行先まで導通をつぶさに調べましたが、断線やショートの異常はありませんでした。MLCC(セラコン)の容量については基板実装状態での測定で、C50からC53はほぼ0.1uFでしたが、C60(右下)は0uF, ショートでした。
取り外しに一生懸命で、どれがどの番号かわからなくなってしまいました。取り外してから測定では0.1uFのものが3個で、2nFが1個、残り1個はショートしていました。はんだごての熱の影響でおかしくなったことも考えられます。
ICとMLCCを全部交換したので確かなことは言えませんが、原因として可能性の高いのはC60のショートだと思います。これがショートするとMAX202CWEの保護回路が働くのかもしれません。(Datasheetを見てないので、勝手な想像です。)
MAX202CWE(MAXim Integrated) の代替品と思われるICを秋月電子で扱っていました。SP202ECT(Sipex Corporation)です。Datasheetの内容は同じでしたので、これと交換することにします。一緒に5個のMLCCも交換します。
交換作業
問題はSOP16のICもMLCCも、交換したことがない始めての経験です。Youtubeを何本か見て交換作業のイメージを作ります。足が多いICは付けることより、基板から外すことの方が大変のようです。失敗すると基板パターンを剥がすことになりかねません。もしそうなったら、簡単なことではないのでしょうが、修復は足どおしをジャンパーするようです。
考えられるだけの未然防止として、ハンダごての取り回しのため周辺の電解コンデンサを最初に外しました。さらに、低温ハンダとハンダごて2本を使いました。
MAX202CWEの片側ずつに2本のハンダごてをあてがい、しばらくなぞっているとICが動くのがわかります。この瞬間に2本のこてでICを挟み込んで持ち上げて撤去します。目一杯だったので写真を撮る余裕はありませんでした。
下の写真はメインのMAX202CWEを外した直後です。ハンダかすがまだ基板に残っています。
5個のMLCC(セラコン)も取り外し方は同じで、両端のハンダを2本のこてで同時に溶かして外します。写真は基板の掃除をした後です。C60のセラコンを外す前にメインのICは引き抜いておきました。
電解コンデンサも交換
基板実装のままと外してからの容量測定の結果を示します。実装のままだとおかしな測定値にしかなりません。外して測ると、不思議なことにほとんど容量が減っていません。30年たってるのに不思議です。周囲に発熱体がないので容量劣化はをしないのか、どこかの段階でその時のオーナーが電解コンデンサを交換したのかわかりませんが、交換したとわかるようなハンダは見当たりません。
操作パネル側には4つの電解コンデンサがあります。
計測回路部では2個の220uFを交換しました。470uFらしきOS CONが2つありましたが容量測定したところ1000uF以上あります。よくわからないので交換をやめました。もう一つの理由はこの上にアルミのカバー(磁気シールド?)で覆うのですが、入手したリードタイプのOS CONではカバーが当たります。同じ理由で手前に見える1000uFも未交換です。
交換後の写真はありませんが、操作パネル部の電解コンデンサも取り外し可能な3個を交換しておきました。
操作パネル基板を固定する爪は基板を取るとき、ことごとく割れてしまいました。中央のネジ1本で固定することになりましたが、動かすものではないので大丈夫でしょう。
操作パネル枠は手持ちハンドルと一体になります。ハンドルを持ってぶら下げるとき枠のラッチとアルミボスで本体を支える仕組みです。据え置きでしか使わないのでぶら下げる使い方はしませんが、念のため壊れたラッチの代わりに粘着テープ止めにしました。
復元とシリアル通信の成功
幸い修理が成功しました。Ts Veiwerとつなぐと左上にRMT(リモート)の表示が出ます。やった!感激です。
修理って、ワクワクするし治ったときの感動も新鮮です。何より安く高価な機能を手に入れるのが魅力です。
元々がRS232CのインターフェースICを交換することが前提(思い込み)の修理だったので、故障個所の特定をしっかりやりませんでした。C60セラコンのショートに気づいたのはMAX202CWEを外したあとです。
今になって考えてみると、C60セラコンを交換すれば治ったのかもしれません。C60以外のセラコンはすぐ見つけることができ、Datasheetと照合しながら容量チェックをしたのですが、そのときは離れた場所にあったC60を見つけることができませんでした。
Youtubeに挙がっているPCや他の機器の修理動画をみると、コンデンサ故障が多いです。セラコンのクラックによるショート事例もあります。クラックを見つけるのは目が慣れていないと無理だとは思いますが、最初の段階でテスターでチェックするといったことをしっかり行うべきだったと思います。