電流をオシロで見たいときに、ローサイドならば負荷のグランド側にシャント抵抗を置けば見ることができます。時々使ってました。一方、ハイサイド測定はオシロのグランドと絶縁されている必要があり、なかなか手が出せないでいました。両者の特徴は下記の引用ブログなどで説明されていますが、ハイサイド測定の具体的な実施例を紹介しているブログは見当たりません。
ならばと、自分で挑戦してみることにしました。次の波形は作った回路で測定した、電流のステップ応答の様子です。
矩形波電圧入力で16Ωの抵抗に流れる電流(1Hzと10Hz) |
方法検討
ローサイド電流検出とハイサイド電流検出
回路の形態には、ローサイド検出とハイサイド検出があります。
ローサイド検出では、負荷のグランド側にシャント抵抗器を配置し、グランドとの間に生じる電圧を検出します。ローサイド電流計測は、コモンモード電圧がほとんどかからないため回路の設計が容易です。また、電圧がグランドに近いため、高電圧がかかる回路や電源電圧にサージなどが発生しやすい回路の電流計測に適しています。一方で、システムグランド-負荷グランド間で差分が発生するため、グランドした負荷には使用できません。ハイサイド検出では、負荷の電源側にシャント抵抗を挿入します。負荷をグランドしていても電流を検出することができます。また、検出回路を電源の近くに配置できるため、制御回路への接続もローサイド検出に比べて容易です。一方で、コモンモード電圧に対処する必要があり、回路が複雑になります。また、オペレーションアンプ(オペアンプ・OP)の電源電圧を高くする必要があります。
このように、ローサイド検出とハイサイド検出には長所と短所があるため、計測の目的に応じた回路の形態を選択してください。ハイサイド検出 A:電源 B:外部抵抗 C:シャント抵抗器 D:オペレーションアンプ(オペアンプ・OP) 引用元:シャント抵抗の選定方法
電流測定には専用のICを使うのが一般的なようです。私もINA219は持ってますが、アナログ信号が出ないのでオシロでの観察ができません。
思い浮かんだのはオペアンプの差動増幅回路ですが、Analog Devices のサイトに次の回路がさらっと紹介されていますが、詳しい情報はありません。
差電圧アンプ回路の“落とし穴”
昔から良く知られている差電圧アンプ回路は、4つの抵抗を使ってシンプルに構成することができます。しかし、そのようにして実装された回路の多くは高い性能を発揮することはありません。
図1に、4つの抵抗で構成される従来型の差電圧アンプ回路を示します。これは非常に便利なもので、40年以上も前から教科書や文献に取り上げられています。
ハイサイドの電流検出
ハイサイドの電流を検出する方法
図 1 に示したのは、ハイサイドの電流を検出するための典型的な回路です。ゲイン抵抗 RGAIN には、負帰還によって電圧VSENSE が印加されます。RGAIN を流れた電流は、P チャンネルの MOSFET(PMOS)を介して抵抗 ROUT に流れます。それにより、グラウンドを基準とする出力電圧が生成されます。
この回路について、次のアプリケーション・ノートに特徴が詳しく説明されていました。じっくり読み進めると、なんとなく理解した気分になります。
この回路のオペアンプにはLT1637を使っています。このオペアンプが定番のようです。このオペアンプの特性をはじめて知ってびっくりです。負荷の電圧がオペアンプのVCC電圧を超えても働く"Over-The-Top" というオペアンプです。(データーシートには、「3Vの電圧で差動とコモンの両モードで44Vまで使えます」と出ていました。)
ただし、電流に換算する出力電圧はVCC電圧までなので、頭の切り換えが必要です。
このオペアンプはとても魅力的なのですが、残念なのAliexpress以外で扱っているショップがありません。品物の真偽を抜きにしても、ひと月待つのでは熱が冷めてしまいます。ハイサイド電流測定で観察したかった電子工作をそのままにして待つほどハイサイド電流測定がmustではないです。
他には、"Over-The-Top" ではないようですが、秋月にはLT6106という電流測定専用ICの扱いがあります。しかし、320円の商品を500円の送料を払って購入する気にはなりません。
ハイサイド電流測定の回路を見ると、LT1637オペアンプ専用ではなさそうです。単電源のLM358であれば測定はできそうです。今直ぐにが第一条件なので、LM358で試してみることにします。
シミュレーション
「伝スパ」でハイサイド電流検出のシミュレーションを詳しく説明されています。うれしいことに、オペアンプはLM358が使用されています。(^O^)/
さらに、数本のシリーズ動画で、差動増幅から前項のハイサイド電流測定回路までがじっくりと解説されていました。
このモデルを使わしていただいて、LT1367 と LM358 の比較をしてみました。注意すべき点は、負荷電圧10Vとしたとき、LT1367 は"Over the Top"のため10V以下の5Vの正電圧を加えたのに対して、LM358 は10V以上の12Vの正電圧を加えています。負荷を流れる電流は0~3Aでの計算です。
シミュレーション結果を見ると、出力(V(out*))は両方が重なっていてほとんど同じです。精度が異なるようですが、趣味で使うにはLM358であっても全く問題ありません。
細かい比較をすれば、真値との差はLM358よりもLT1367の方が少ない結果です。しかし、その差は2~3mAでしかありません。ただ、LM358の場合は原点オフセットがあるので、微小な電流域では誤差が大きくなります。今回見たい電流はそこではなく、高精度もいらないので、LM358で十分目的が達成できます。
製作
LM358で製作しました。シャント抵抗は0.1Ωとし、Rd 1kΩ、Rf 10kΩ でゲイン1.0倍です。
特性測定
次の図の青太字の項目を測定しました。
DMMのR6552で測定した電流を基準にして、定電圧電源の表示する電流値と測定回路Vout電圧を測定しました。なお、Vout電圧 はマルチメータB35TとDSO(平均値)の2つの測定器で測定してみました。
数値データーも載せておきます。
測定できる電流範囲
何Aまで測定可能なのかを見るために、シャント抵抗とゲイン設定の抵抗をそのままにして、10Aまで電流を流すシミュレーションを行ってみました。
負荷は10Vで、LT1637は"Over the Top"なのでVCCは5V、LM358のVCCは12Vです。LM358のVCCは "Common Mode Input Voltage Range" が max V-1.5V なので12Vにしています。
シミュレーションによると、LT1637は4.3A、LM358は8.9Aが限界です。この理由は電流の増加とともにオペアンプの出力電圧(V(Vo1 /2))が上昇し、VCCの電圧になった(電位差ゼロ+α)段階でオペアンプがVCC電圧以上に出力できないためです。
オペアンプの出力電圧(V(Vo1 /2))はRdとRfの分圧比できまるので、ゲイン(注1)を大きくすればより小さな電流までしか測定できません。例えば、Rf 15kΩ にして、Gain =1.5 では、LT1637は3A、LM358は6.2Aまでとなります。
\[(注1)\ Gain={Rs}\times \frac{Rf}{Rd} \]
応答性
次に示すのは、0から750mV(750mA)のステップ応答波形です。1kHzまでなら、値の評価はできると思います。それより早いと切り換わり時のノイズ(発生部位不明)が大きくなり、電流波形も歪が出ているので、大小比較くらいしかできないと思います。
まとめ
- ハイサイド電流測定回路をオペアンプで作る方法が理解できました。
- オペアンプにLT1637を使うと、負荷の電圧がオペアンプ電源電圧を超えて使えます。(USB電源の汎用測定回路が作れます。)
- オペアンプの電源電圧を負荷電圧(電流測定箇所の電圧)より、1.5V以上大きくするなら、汎用のLM358を使ったハイサイド電流計測回路を作れます。
- 測定できる電流は、オペアンプの電源電圧とシャント抵抗を含む測定回路のゲインで決まります。
- 0.1Ωのシャント抵抗とLM358のオペアンプを使うと、100mA以上では計算上の測定精度は3%以下にできます。
- 今回は電流の大きさを比較し、その波形を観察することなので、0.1Ωのシャント抵抗とLM358のオペアンプで目的が達成できそうです。