ハイサイド電流測定回路をブレッドボードで実験的に作り、静特性の測定とステップ応答波形の観察を前報で行いました。ステップ応答は出力をON/OFFすれば作れるので、2Aが流せるフォトカプラーを使ってファンクションジェネレータの信号でON/OFFさせました。
同じことをサイン波で試して見たくなりました。このときの課題は8Ω負荷に最大2Aを流せるサイン波です。そこで、ファンクションジェネレータの信号を増幅して、負荷抵抗にサイン波の電圧を加えることを考えました。オペアンプ出力のファンクションジェネレータなので±1V、数10mA出力です。この電圧と電流を増幅するアンプが必要です。これを自作してみます。
電気の基礎を学んでいなくて見様見まねで電子工作を始めた私には、これが無謀なのか妥当なのかが分かりません。ただ、Google検索しても事例が出てきません。無謀だから事例がないのか、当たり前すぎでブログにしないのか。やはり無謀なのでしょうか?(-_-;)
アンプ仕様
増幅回路案
ファンクションジェネレータのオペアンプ出力(60mA、±1V)を増幅して、max DC12V、2Aの電流が流れるようにしたいので、パワートランジスタを使ったエミッターフォロワ(コレクタ接地回路)を出力部に置くことを考えます。そして、エミッターフォロワは電圧増幅ができないので、エミッタ接地増幅回路などで電圧を増幅する2段構成にします。
仕様から数値化すると、電圧は最大で $\cfrac{12(V)}{1(V)}\ = \ 12$ 倍にすることになります。
トランジスタ増幅回路を曲がりなりにも設計しなければならないので、「定本 トランジスタ回路の設計」で学びながら進めます。同様なことを検討しているブログがありましたので、参考にさせていただきました。色々な回路をLTspiceと実験で検証されており、とても役立ちました。
エミッタ接地+エミッタフォロワ
エミッタ接地回路には2SC1815GRを使い、エミッタフォロワにはspice modelが備わっている100W 15Aの2SC5200でシミュレーションします。
試行錯誤しながら考えた回路定数の設定が下図になります。振幅±0.1Vを1kHzで入力した信号をエミッタ接地回路で電圧増幅させたあと、エミッタフォロワの負荷抵抗として、5Ωから5kΩまで10倍ステップのケースで計算しました。
負荷が小さい(5kΩ、ピンク)ときは、電圧V(Vout)、電流I(RL)とも歪のない波形ですが、±150uAの電流しか取れません。これより負荷が大きくなると、マイナス側で波形のクリープが出ます。
エミッタ接地+プッシュプル
入力振幅を±1Vにしても、クリープが発生していません。電源電圧Vin 12Vでは5Ω負荷のとき電流波形のマイナス側に歪が見られたので、Vin 15Vにしました。
5Ω負荷(赤)のとき、入力±1Vに対して電圧±500mV、電流±100mAの結果でした。
クリープは見られません。仕様には不十分ですが、100mAならパワートランジスタは必要としないのでSC1815/SA1015でもOKでしょうから、小信号を見たいときには実際の回路を組んで試してみたい気にはなります。
OPアンプ+エミッタフォロワ
「定本 トランジスタ回路の設計」のP87から説明されているオペアンプの非反転増幅回路で電圧を増幅させる回路です。正電圧だけで成り立つようにLM358を使い、入力はバイアスさせています。
入力±1Vをバイアスさせて1±1V(0~2V)とし、オペアンプで5倍(0~10V)にした電圧をエミッタフォロワに入れています。電源電圧はバイアス電圧1V:12Vにするため、13Vにしました。
入力±1Vを±5Vに増幅し、5Ω負荷(赤)のとき、電流は1A±1Aを取り出せています。
周波数特性もシミュレーションしてみました。出力V(out)が5倍の14dBになるのは500Hzから20kHzの範囲で、それより低い周波数でも高い周波数でも、倍率がわずかに小さくなります。
電流の特性では、最も負荷が大きい5Ω負荷(赤)のときで、200kHz@-3dBでした。
OPアンプ+エミッタフォロワ回路の実装と特性測定
A: 電圧増幅(OPamp非反転増幅)
まず、トランジスタを付けないオペアンプの増幅を見てみます。ファンクションジェネレータの信号Sign(青;1.172Vp-p)とOPamp非反転増幅Out(黄色;3.203Vp-p)を図示します。1Hzのサイン波入力から、周波数を上げていきました。
入力、出力とも谷の部分がつぶれています。これは入力を小さくするとなくなりますが、とりあえず、このままの入力条件としました。
周波数に対して、前項で示したシミュレーションのボードー線図と同傾向の結果です。すなわち、1kHzから10kHzの範囲でゲインが最大になり、位相は低周波数域で進み、高周波域で遅れという結果です。
また、20kHzより上では出力波形は三角波に近づいています。
電圧増幅(トランジスタ付き)
2SD1047を付けてOPアンプ+エミッタフォロワにした時の特性を示します。オレンジのコードがファンクションジェネレータからの信号(Sign)で、2SD1047の右側の足がエミッタ(Out)です。
Signは前項と同じなのですが、下図のように入出力とも下側が欠けたような波形になりました。興味深いのは、1kHzでは欠けていた波形が、増幅率の下がる10Hzではちゃんとしたサイン波になっていることです。欠ける原因は入力信号が大きすぎることだと思いますので、Sign入力を1/5に絞ります。
B: 入力 1/5にデチューン
入力振幅(Sign)を214.8mVにしました。波形の欠けは見られません。なぜか、倍率の最大が8倍になっています。実験上の問題なのか、ブレッドボードでの接触不良の問題なのか、原因がわかりません。
周波数特性は値の不一致はありますが、傾向としてはシミュレーションのボードー線図のように変化しています。
C: 16Ωの抵抗負荷での電流波形
負荷に16Ωの抵抗を付けて、既報で自作したハイサイド電流測定回路を使って電流を測定してみます。ファンクションジェネレータ信号を入力(青色:Sign)として、電流測定回路出力(黄色:Sens)を見たものです。
値(電流値)は机上計算では、67mAp-p ですが、156mAp-p@1kHzと合いません。
シミュレーションとの値比較
A: 電圧増幅(OPamp非反転増幅)
ファンクションジェネレータの振幅を214.8mVp-pに絞った時の結果です。シミュレーション値と大幅な違いが出てしまいました。OPアンプの出力を2SD1047のベース信号に入れただけなのですが、このような結果になってしまいました。
実験値を0.68倍(1kHzにおけるシミュレーション値/実験値)すると、ほぼ全体の周波数域で一致が見られます。
C: 16Ωの抵抗負荷での電流波形
- 数10mVの大きさのファンクションジェネレータの信号を増幅して16Ωの抵抗に電圧を加え、流れる電流を測定するという目的は達成できました。
- 問題は、測定された電流がシミュレーションを大幅に異なった結果となりました。
- オペアンプの非反転増幅電圧までは、シミュレーションと一致していますので、これ以降のパワートランジスタ部とハイサイド電流測定回路が値の合わない原因になります。
- 既報では、静特性ではハイサイド電流測定回路での測定値は実際に流れた電流と一致していました。
- 不一致の原因を推定すれば、使った素子の故障、ブレッドボード回路の不安定(接触不良)、実験方法などが考えられます。やみくもに手をつけることもできないので、お手上げです。
- 「手持ちの部品を使ってと」着手した試みでしたが、その時、その条件での大小比較程度にしか使えないという残念な結果です。