ローサイド電流測定を比較してみる

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電流検出には、シャント抵抗を使って抵抗間の電位差を電流に換算する方法が良く用いられています。この方法は文字どうりシャント抵抗が測定回路の抵抗になるので、なるべくそれを無視できるほど小さな抵抗が望ましいのですが、抵抗が小さいと電位差が小さく検出しずらくなります。そこで、小さな電位差をアンプで増幅するという方法です。

シャント抵抗を負荷の下流に置くローサイド電流検出と、上流に置くハイサイド電流検出があり、それぞれ一長一短があるのようです。今まではアンプを意識せずシャント抵抗だけを負荷の下流に置いて、テスターやオシロで測定していました。



ローサイド電流検出をネットで調べてみると、何通りかの回路がでてきました。電子工作を楽しんでいる私向けにはどの回路構成が向いているのか、シミュレーションベースで比較してみます。

電流検出回路

あらためて調べてみると、ローサイド電流検出回路のインテグレーション - TI.comに次のように説明されています。図2の(b)が作動増幅回路でこの前に学んだ回路構成です。

電流検出アンプとして使用するとき、ディスクリートソリューションはローサイドの検出抵抗の両側に発生する電圧を検出し、増幅します。ローサイドの電流を検出するため使用できる2つの技法を図 2に示します。

図 2aに示す最初の技法では、2つの外付けゲイン設定抵抗を使用して、片側の測定を行います。片側の測定は、使用する部品は少なくなりますが、抵抗のグランド側が検出されません。検出抵抗の値が小さい場合、またはグランド電流が大きくなる可能性がある設計では、この技法は精度が低下します。

図 2bに示す2番目の手法では、従来型の差分アンプ・トポロジを使用して、検出抵抗の両端で直接電圧ドロップを検出します。この方法では、抵抗からPCBグランドへの電圧ドロップが除去されるため、特に大電流の検出において高い精度が得られます。

① 確実な方法(作動増幅回路)

調べてみると、専用の電流センスアンプは前述の作動増幅回路が使われています。たとえば、前述資料には「図3 INA180」として、このような作動増幅回路の説明図が載っています。


また、作動増幅回路での検出回路を説明しているローサイド電流センシング回路設計 Rev.005:ROHM Co., Ltd. All rights reserved.という回路設計の解説資料もあります。

図2(b)の回路図に示すオペアンプの出力から電流に換算します。

\[ VOUT = \cfrac{R2}{R1}\times (V1-V2) =  \cfrac{R2}{R1}\times R_s \times Isens\]なので、測定された電流は\[\begin{equation}Isens = VOUT \times \cfrac{R1}{R2} \times \cfrac{1}{R_s} \end{equation} \]

となります。電圧にゲインを掛けると電流に換算できるので、容易に電流測定に使えます。ただし、問題は作動増幅回路を成立させるためには、全く同じ抵抗値の抵抗(R1とR2)が2セット必要なことです。

② OPアンプとトランジスタを組み合わせ

ハイサイド電流計測回路 その2:ねがてぃぶろぐには下図の回路が載っています。オペアンプは、2ピンIN-と3ピンIN+とが同一電圧になるようにトランジスタを制御します。 式で表すと、\[ \begin{equation}R_s \times I(R_s) = R1 \times I(R1) \end{equation}\]
ここに、$I(R_s)$と $I(R1)$は、それぞれの抵抗を流れる電流
となるようにnpnトランジスタが機能します。そして、R1とR2の抵抗比でゲインが決まり電流に換算されます。

電流は上図のなかに示されたVoutの関数として求めることができます。この回路のネックは基準電圧VCCが検出電流に関与していることです。安定したVCCを得たうえで、VCCからVoutを引く計算をしなければなりません。

これは、マイコン等を使う場合は問題ないのですが、測定値を直接オシロで観察したいといった使い方には不向きです。

③ 非反転増幅回路(「古典的な」高精度ローサイド電流検出)

前項の図2(a)に示された回路は、標準的な非反転増幅回路です。アプリケーションノート 105 はじめに-1 電流検出(センス)回路集にも説明されています。

グランドを検出することができないので、次のデメリットがあるのですが、前項の①②に挙げたネガ項目がないので、電子工作には手軽に使えるメリットの方が大きいです。

検出抵抗の値が小さい場合、またはグランド電流が大きくなる可能性がある設計では、この技法は精度が低下します。

標準的な非反転増幅回路なので、出力電圧は次のように求められます。

\[ VOUT = \left( 1+\cfrac{R2}{R1}\right) \times V1 =   \cfrac{R1+R2}{R1}\times R_s \times Isens\]この式を変形すると、測定された電流は\[\begin{equation}Isens = VOUT \times \cfrac{R1}{R1+R2} \times \cfrac{1}{R_s}\end{equation}\]

LTspiceでシミュレーション

各々の回路が比較できるようにモデルを作りました。0から5Aまでを流すDC解析をしてみます。オペアンプは手軽に使えて、グランドレベルまで有効なLM358を使いました。


DC静特性

  • 大雑把に見たら、3つのケースとも同じ値で電流測定ができそうです。(下図の下段グラフ参照)
  • 実電流 I(I1) と比べると、どのケースも測定値は40mA程度のずれがあります。(下図の上段グラフ参照)
  • ②のケースでは40mA程度のずれが電流の増加とともに増えて、5Aでは50mA程度になります。



OPアンプの影響

実電流と40mAのずれがあることやゼロA付近の偏差は、シミュレーションに使用したオペアンプ(LM358)に起因します。これを見るためにゼロ・ドリフト・アンプであるAD8551に変えて同じシミュレーションをしてみます。2つのオペアンプの入力オフセット電圧は表のように異なります。

入力オフセット電圧入力オフセット電圧ドリフト
μV/℃
LM3582mV7
AD85511μV0.005

下記に示すAD8551では、実電流とのずれやゼロA付近の偏差がなくなり、①③の回路では1mA以下の精度、②では10mA以下の精度です。アプリケーションノート 105 はじめに-1 電流検出(センス)回路集では次のように説明されています。

使われるオペアンプは下側レールでの同相動作をサポートする必要があり、(示されているように)ゼロドリフト型を使うと優れた精度が得られます。



補足

②のケースでのトランジスタの役割をシミュレーションで見てみます。オペアンプの反転、非反転入力がイマジナリーショートになるようにnpnトランジスタう制御するので、その様子を表すのが上記(2)式です。LTspiceで数式どおりに掛け算して、(2)式の左辺と右辺を見たものが下図の上段グラフです。グラフは左辺と右辺が1nW(ナノワット)以下で一致している状態を表しています。

下段のグラフは、③の非反転増幅回路を基準にした時の①と②の回路との差異を表しています。①と③はほとんど同じ電流値を示し、②の回路ではゼロ近傍のオペアンプのオフセット電圧が精度に影響しやすく、測定電流を増やすと誤差が増えるという結果を示しています。




まとめ

電子工作で手軽にローサイド電流検出を行うには、非反転増幅回路で構成する③のケースがベストだと思います。

文献では、「検出抵抗の値が小さい場合、またはグランド電流が大きくなる可能性がある設計では、この技法は精度が低下します。」とありますが、検出抵抗10mΩで比較して①の作動増幅回路と有意差は出ませんでした。

単電源で使えグランドレベルまで有効なLM358で検討した結果、-40mA程度のオフセット(実際の値からのずれ)が測定結果に乗ります。

これを無視できないならば、オフセットキャンセルの回路を追加するか、入力電圧オフセットの小さなOPアンプを使うことになります。それは下表に一例を示すようなレールtoレールで、入力オフセット電圧の小さなOPアンプになります。このオペアンプを使うと、シミュレーション波形に示すとおりゼロmAからほとんどオフセットの影響を受けることなく特性が立ち上がります。

入力オフセット電圧入力オフセット電圧ドリフト
備考
μV/℃
LM3582mV7汎用・両/単電源sens near ground
AD85511μV0.005¥940 /5個 AliexpressRail to rail
LT1637100μV1¥436 /2個 AliexpressRail to rail
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