パワートランジスタやMOSFETにはヒートシンクをセットで考えるのですが、その選定/設計の仕方をWebで見ても、拾い読みでは理解するのにいま一歩です。何となく呑み込みにくいので、LTspiceを使って視覚的にとらえられるツールを考えます。情報がまとまっていた方が理解しやすいので、色々なところから記事を引用させていただいています。
ただし、自分で考えたのではなく次のYuotube動画の焼き直しです。シリーズの動画ですので、コメント欄から基本的な説明のある動画へも飛べます。
LTspiceで熱解析
サーマルモデル(Thermal Model)とは
引用元:12 Power Elecronics: Thermal Consideration - Part 1
解析モデル
引用元では、LTspiceに備え付けで熱モデルもあわせ持つMOSFETを使っています。そして、備え付けの熱解析モデルでの結果と熱回路を電気回路に置き換えたモデルでの結果を比較しています。
MOSFETは IPB035N08N3 を使っています。これは下図に示すように RthetaJA 以下の熱モデルの記述が書いてあるので、熱モデルを含むモデルでだとがわかります。
MOSFETの熱抵抗はDatasheetに記載されています。この例では、① junction - case と ② janction - ambient の2種類の熱抵抗が記載されています。junction は演算部のことで発熱体になります。その周りを取り囲む黒い樹脂と背の金属プレートを含んで case だと思います。
熱モデルではjunction、case、ambient を分けて考えるので、②から①の熱抵抗を差し引いて、case - ambient の熱抵抗を求めています。
RC熱モデル
熱解析モデルは熱抵抗と熱容量、それに熱源たる電力と温度で表します。MOSFETを熱モデルで表すと下図のピンクで囲んだ部分になります。発熱源のPdと大気Taの間に2種類の熱抵抗が直列に繋がっているだけの単純なモデルです。緑枠は後付けのヒートシンクです。これに電動FANを取り付ける場合は、気流の影響を考慮した熱抵抗にします。
Case Tc と大気 Ta の間にCase の熱抵抗と並列にヒートシンクを置きます。絶縁耐熱シートあるいは耐熱グリスはR6 で表しています。ヒートシンク本体はR5です。
Pd 発熱源(電力)は、電流のビヘイビアモデルを使い電気回路のM1の両端に働く電位差と流れる電流の積で表します。電流はドレインからソースとゲートからソースの2系統ありますので、それらを合計しています。
.ic V(tc) = {ta} のコマンドは熱解析の初期条件を与えています。
備え付けの熱モデル
水色で囲んだ回路が電気回路で、ここに置いたM1 IPB035N08N3 は前述したように熱モデルが入っています。これを機能させるためには、
のオプションコマンドを書きます。
解析結果
Id(M1)がドレイン電流、Ig(M1)がゲート電流です。M1での消費電力は約1.1W で一定です。
このときのケース温度とジャンクション温度をRC熱モデル V(tc), V(tj) と備え付けモデル tc#m1, tj#m1 で比較します。初期の過渡段階では立ち上がり特性にやや違いが見られますが、定常値はほとんど同じです。(後述*1するように、両社のパラメータを合わせたので当然の結果です。)過渡特性は、熱容量C1の影響ですが、備え付けモデルでは何かの考慮があるのかもしれません。
ここで言えることは、LTspiceに熱モデルが備わっていないトランジスタなどでも、電気回路での発熱量を計算して与えれば、上記のRCのモデルで発熱を見積もることができることです。
ヒートシンクのパラメータの求め方 *1
SOAtherm-HeatSink
熱抵抗
熱抵抗(R、Θ)は2点間の温度差を熱流量で割った値で、1Wあたりの温度上昇で表します(℃/W(K/W))。値が低いほど、熱が伝わりやすく放熱特性は高いと判断できます。
引用元:熱抵抗と放熱の基本:伝導における熱抵抗
物体の熱抵抗は次式で表せます。
\[熱抵抗値[m^{2}・k/W]=\dfrac{厚さ[m]}{断面積[m^{2}]・熱伝導率[W/(m・K)]}\]
K ∶ 熱伝導率 1.2 [W/m・K]
L ∶ ケース接触面の長さ 15 [mm]
W ∶ ケース接触面の幅 10 [mm]
つまり、前例の熱解析モデルで使ったヒートシンク SOAtherm-HeatSinkでのパラメータ Area_Contact_mm2=100 とは、例えばK=0.67[W/m・K]、L=15[mm]、W=10[mm](熱伝導率0.67 W/m・K のグリスを塗ったT0-220)の場合に相当します。この時の分子の100 はグリス膜の厚さ0.1mmのケースと同意です。
熱容量
ヒートシンクの大きさ
包絡体積に依存する場合の熱抵抗
放熱器(ヒートシンク)の表面にヒダがたくさんあって、市販のアルミ製の立派な物等の場合の熱抵抗を算出するグラフです。
板の場合でも複雑に曲げたりして、包絡体積に依存する場合もこのグラフを適用します。これも私が会社でテレビの設計をしていた時、実際に使用していたものです。
包絡体積とは、放熱器のいちばん外側の外形を結んだ体積のことです。放熱板を複雑に折り曲げた場合や、放熱フィンがたくさんあり複雑に入り組んだ物等に適用します。
このグラフは自然対流の場合で、放熱器の温度上昇が50度Cの時にのみ適用できます。強制空冷の場合はこれとは全く違ってきますので注意してください。
このグラフは自然対流で、放熱が理想の状態の場合であり、実際の放熱器ではこのグラフより熱抵抗は大きくなるのが普通です。引用元:放熱板、放熱器(ヒートシンク)の放熱設計法
他事例 ROHM
ROHM熱モデル
左:SCT3040KR.asy 右:SCT3040KR_T.asy (熱解析モデル) |
引用元の記事と同じ解析をやってみました。350secでジャンクション温度が100℃になるという記事と同じ結果が得られました。
次に電気モデルを使って、MOSFETまわりの電位差と電流を取り出し、電流ビヘイビア電源に電力として入力します。記事にRとCの値が書いてあるので、それでMOSFETの熱解析モデルを作ります。ヒートシンクはROHM熱モデルと同じにします。
計算すると、350secで89℃にしかなりません。スイッチングによるTjcの振幅もROHMモデルよりも少ないようです。
理屈はわかりませんが、計算上でMOSFETの電力を比較すると下図になります。ROHMモデルではTj、Tc、Taの熱モデルへ入出する電力が加算されています。さらに引用元の記事にはMOSFETのボディーダイオードに流れる電流について書かれていますが、それは考案モデルでは考えていません。(取り出し方がわかりません。)
左:ROHMモデル 右:考案したRC熱モデル |