計画編 デサルフェーターを作ってバッテリ復活に挑戦する

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Pbバッテリーを再生させるデサルフェーターを自作して、車のバッテリ復活を試みます。

今は何年か前に一度上げてしまったことがあるバッテリーをだましだまし使っています。というのはハイブリッド車なので、10Vほどの電圧があれば問題なくシステムの起動ができるからです。このバッテリはハイブリッドシステムが起動すると13.5V以上でますが、止めると10V程度に下がります。この現象がサルフェーション劣化の影響なのか、電極が1本壊れているのか判断に迷います。

数千円のお金をかけて市販のデサルフェーターを試しても、セルが壊れていたら無駄になります。だから、新たな出費をせずに手持ちの部品でデサルフェーターを自作することが目的です。



目次
  1. デサルフェーター自作情報の調査
    1. オリジナルモデルとその流れモデル
    2. 服部氏モデル
  2. 自作品の仕様というか、制約
  3. LTspiceシミュレーション
    1. リギング発生モデル
    2. 服部氏モデルのシミュレーション
    3. 補足(興味本位)
      1. C3コンデンサ容量アップ(ONパルス時間増)
      2. バッテリー内部抵抗の影響
  4. コンポーネント・セレクション
    1. シミュレーション
      1. C3(ONパルス時間)の影響
      2. L1容量の影響
      3. L2容量の影響
    2. コンポーネント・セレクション結果
  5. LTspiceモデル

デサルフェーター自作情報の調査

個人用の書庫ブログにネットにあった情報を整理しました。

デサルフェーターの仕組みは次のように整理されていました。

原理: Alastair Couper氏が雑誌に発表した記事の概要
  •  鉛蓄電池は充放電すると電極に硫酸鉛の結晶が付き(サルフェーション)劣化して寿命となる。
  • 硫酸鉛の結晶には共振周波数(2~6MHz)があり,鉛蓄電池にパルス(2~6MHz)をかけることで硫酸鉛の結晶を溶解させ性能を回復させる方法が発見された。(実際は別件の実験中に効果を発見したらしい。)
  • 12Vの鉛蓄電池に2~6MHzで30~50Vくらいのパルスをかけることで徐々に改善されていくが,実際の回路では直接鉛蓄電池に高周期のパルスを加えることは難しいので,コイルの逆起電力によるリンギングを発生させる。
  • このリンギングを共振周波数(2~6MHz)になるよう調整しサルフェーションを除去する 。
  • 共振周波数は3.26MHzであるとの説がある。
引用元:デサルフェータ―3号機(準備) 


 パルス発生には大きく分けて2通りの考え方があるようです。

オリジナルモデルとその流れモデル

  • Alastair Couper氏が発表した考えに基づくもので、Web上で見かけたほとんどがこの事例の発展型。ただし、Couper氏のモデルはPch MOS。(ON/OFFと充放電がNch MOSとは逆動作)
  • 100~200uFほどの容量のコイルに1~10μsのONタイムパルスで電荷を充電した後に、パルスOFFで一気に放電することでリギングを発生させる。
  • 繰り返し周波数は10~20kHz程度。(あるいは一説には10~500Hz)Duty3~4%
  • 555 IC でパルスを発生させる。
  • ターンオフのスイッチング速度が速いFETが放電時のリギング生成に有効らしい。
  • FFTはドレインーソース間電圧 60V、同電流 数10A、ターンオフ時間 数10ns。

服部氏モデル

  • 強いリギングが発生すると言われている極短時間(200nsec)のONパルスを高周波(200kHz)で繰り返す。
  • 555 IC はCMOSタイプ。(周波数応答性が 3~ 5 MHz)
  • インダクターは1uH と小型。マイクロインダクタを使う。
  • MOSFETはスイッチング速度がものすごく速いものを使う。(推奨FETはFDU6N25 : ターンオフ時間 7ns)
  • 放電時のドレインーソース間電圧 200V 。(FDU6N25 : 250V)
  • 発熱に有利らしい。
  • 200nsecのONパルスを200kHzで繰り返すときの Duty 4%

自作品の仕様というか、制約

手持ち在庫部品を使うことが目的なので、以下の2部品はmustです。
  • タイマーICはバイポーラ型のNE555P: 周波数応答のスペックなし。~500kHzか?
  • MOSFETは2SK2232:ドレインーソース間電圧 60V、25A


バイポーラの555 IC でも、200nsのパルスや200kHzの周波数が得られるなら、小さくて、発熱が少ない魅力的な「服部氏モデル」に近づけるかも知れませんので、事前に実験してみることにします。

「服部氏モデル」の部品定数では、計算上はONパルスが69ns、周波数328kHzになります。CMOSの555であっても、モデルの説明では200ns、200kHzとのことなので、実際には555 IC 内部の容量が効いているのだと思われます。




バイポーラのNE555Pを使って実際に上記パラメーターで実験してみたところ、ONパルス1.2~1.5μs、122kHzでした。


NE555Pのデータシートでは下記のようになっており、100pFの容量や10μs以下(100kHz以上)のパルスはスペック外なので、何かが起きるかもしれません。実際に発振させると計算値から大幅にずれていることも気になる点です。NE555Pが無理々動いているのだと想像できます。


データーシートに則った使い方をすることが前提ですので、オリジナルモデル流にしてONパルス数μsで考えます。(データーシートは10μs以上です。)

LTspiceシミュレーション

リギング発生モデル

検討するにはシミュレーションモデルがあると便利なので、下図のモデルを作りました。破線の矩形で囲んだL3とC2は、実際と同様なリギングを発生させるため追加しています。R2も同じ狙いなのですが、さらに内部抵抗を1Ωにしてかなり劣化したバッテリーをイメージしています。

これらのパラメータでパルスOFFの瞬間にリギングが発生するモデルになりました。以降はバッテリー端でパルスOFFの瞬間に発生する電圧変動をリギングと呼び、電圧のピーク to ピークをリギング電圧と呼ぶことにします。

リギング周波数は4~5MHzほどで実機を模擬できていますが、実機に比べリギングの振幅は小さく収束は早いです。

下図に示すパラメータは「服部氏モデル」の値を利用しています。MOSFETはLTSpice備えつけのものからオン抵抗が小さく(0.165Ω)、ターンオフ時間の短い(4ns)ものを選びました。



なお、「服部氏モデル」のインダクターを調べると下表のようなスペックでした。それで、モデルのインダクターにはそれぞれに近い値の内部抵抗を持つものを選んでいます。L2には並列抵抗もモデル化されていますが、これが影響する高周波ではないので無視しています。

インダクターの磁気飽和までの時間を時定数の5倍と考えると、ONパルスを1.5μs以下にしないとヤバイことになりそうです。

容量 L [uH]抵抗(実測)[Ω]最大電流(秋月類似)mA時定数 [us] *1型式
L110.138150.3AL-0307
L23301.85700105AL-0510

*1 時定数
チャージの電流経路の抵抗 R=バッテリー+L2+L1+MOSFET = 1 + 1.85 + 0.13 + .165 = 3.145 Ω
時定数 τ = L / R



服部氏モデルのシミュレーション




C3コンデンサが100pfのとき、ONパルス160ns 247kHz Duty 4%、ドレイン電圧 15.1V、バッテリー端のリギング電圧 1.2Vp-p となりました。

このシミュレーションで気になるのは、L1とバッテリーを流れる電流の瞬間のピーク値です。L1では 817mAでていて、バッテリー電流では1.0Aもでています。実際に使われているインダクターの仕様はL1(1uH、815mA)、L2(330uH、700mA)と比較して計算結果が大き過ぎです。LTspiceのモデルではインピーダンスが「服部氏モデル」で使われているマイクロインダクターと異なるのでしょうか?

補足(興味本位)

C3コンデンサ容量アップ(ONパルス時間増)

C3コンデンサの容量をモデルの設定値の100pFから1000pFまで変えたときのバッテリーのリギング電圧(BATT 赤色特性)と電流(iV1_*)をLTspiceで計算してみました。

C3の容量を変えると、1000pFではパルスON時間は1081ns (1.1μs) と長くなります。Dutyは理想的には変わりませんが、計算では 30.5kHz は 32.7us周期なので、1081ns / 32.7us = 3% となります。なお、下記に示すグラフの横軸はONパルス時間と同意のC3容量です。

リギング電圧はC3容量を大きくしてONパルス時間を長くすると大きくなり、1000pF時の1081nsのときには 9.0Vになります。

グラフでil1_avgとil2_avgは、それぞれL1とL2を流れる電流の平均値です。C3が100pFのとき、それぞれの値は89mAと126mAであり、平均値で見れば使用するL1とL2の最大電流以下になっています。さらに、バッテリー端の電流 iV1 はRMSで187mA です。

これらの電流はC3容量が大きくなる(ONパルスを長くする)と増加するので、焼損する恐れがあります。要注意です。

「服部氏モデル」は発熱の影響を考慮してONパルスを極短時間にすることで、マイクロインダクターの利用を可能にしている設計と推定します。

この解析はたまたまかも知れませんが、程よい結果が得られました。過大電流で破壊されるような構造でなければ、デバイスの許容電流は熱容量で決まると思うので、インダクターを電流のピーク値ではなく平均値で見る考え方もありかなぁと思います。寿命とか信頼性設計は目をつぶっての話です。



バッテリー内部抵抗の影響

シミュレーションモデルでは仮にバッテリーの内部抵抗を1Ωにしていたので、劣化バッテリーとして現実的な100mΩでも計算してみました。これまでと同様に、C3 100pf の条件での計算です。 il1_avg は230mA に増加し、バッテリー端の電流 iV1 も438mA に増加します。ついでに計算した10mΩは新品のバッテリーレベルです。

つまり、バッテリーの内部抵抗が小さくなると、バッテリーに出入りする電流は増え、L1、L2インダクターを流れる電流も増えます。デサルフェーションの効果が表れて、バッテリーが復活してくると電流が増えるので、これを見込んだ部品選定をしなければなりません。


バッテリーバッテリー端MOSFETL1L2
内部抵抗リギング電圧電流 RMSドレイン電圧最大電流平均電流平均電流
[Ω][V][mA][V][mA][mA][mA]
0.010.0252815.11243282313
0.10.2343815.71190230271
11.2218715.181789126


また気になってしまったのは、バッテリー端で発生するリギング電圧がわずかなことです。放出されるエネルギーがわずかなのでこうなるのでしょう。このモデルの実験結果がWeb上に見つからないので、実際の効果は不明です。そもそも、シミュレーションモデルは実機の実験結果とバリデートしていないので、ここが?です。





このシミュレーションは値を云々するのではなく、パラメータを振った時の相互比較には使えると思います。値の良否は実機で見ることにします。

コンポーネント・セレクション

バイポーラ型のNE555Pを使うと、データシートに適合したONパルスは10μs以上になります。このとき、前項のシミュレーションでも表れていますが、L1とL2インダクターに流れる電流は大きくなり許容値を超える恐れがあります。実際に実験したところ、「服部氏モデル」のオリジナルバラメータでは ONパルス1.2μs 122kHzで動いていたのですが、ONパルスを増やそうとR3やR4の抵抗をONパルス時間換算で数倍の範囲で弄っていたところ、マイクロインダクターのL1、L2が焼損してしまいました。

NE555Pを使うことがmustなので、「服部氏モデル」並みのマイクロインダクターを利用できないことになります。


ONパルスを10μs以上にするには、インダクターの熱容量を大きくする(大きな電流を流せるインダクターにする)ことがセットになります。Webの製作例で言えば、L1が100μH以上でL2はその数倍です。

シミュレーション

手持ち在庫のなかで、最大電流が大きくて使えそうなものは次のものです。流せる電流に着目して、シミュレーションしてみます。

容量 L [uH]抵抗(実測)[Ω]最大電流 [A]時定数 [us]*2型式
L1220.022318.3トロイダルコイル
L21000.121.983.3RCH114

*2 時定数
チャージの電流経路の抵抗 R=バッテリー+L2+L1+MOSFET = 1 + 0.12 + 0.022 + 0.057 = 1.2 Ω
時定数 τ = L / R

C3(ONパルス時間)の影響

前項と同様にC3コンデンサを1~3nFに振ってシミュレーションした結果を下図に示します。バッテリーの内部抵抗は1Ωでの結果です。R3 2.2kΩ、R4 47kΩ です。 

ONパルス時間は1.8~5.2μs、周波数は28k~9kHz に変化しています。ONバルス時間が1.8μsのときリギング電圧 4.04V、ドレイン電圧18.8V、L1電流(平均) 1429mA、L2電流(平均)  1437mA です。ONバルス時間が長くなるとこれらは増加します。特にバッテリー電流への影響は大きく 455mAから919mAへと倍増します。

L1に22μH 3A を使う場合、ONパルスは3μsが上限というシミュレーション結果です。

ONパルス時間に対してL2の電流は影響が小さいので、L1電流とバッテリー電流に注目してリギング電圧が大きくとれるONパルス時間を設定すると良いようです。

C3コンデンサONパルスバッテリー端MOSFETL1L2
容量時間リギング電圧電流 RMSドレイン電圧最大電流平均電流平均電流
[nF][us][V][mA][V][mA][mA][mA]
1.001.794.0445518.2211114291437
1.502.654.9361020.1265214291432
2.003.516.3382522.7342814651447
2.504.387.3092224.5399414711457
3.005.237.4991925.2418514811455


左図:C3が1n (1.8us) のとき 右図:横軸をC3容量(ONパルス時間)


L1容量の影響

L1を1μHから1000μHまで段階的に変えてシミュレーションした結果を下図に示します。このときのL1内部抵抗は、容量22uHの抵抗値22mΩを基準にしてL1の容量比例としました。C3コンデンサは1n(ONパルス 2.2us)で固定です。L2は100μHとし内部抵抗も固定です。バッテリーの内部抵抗は1Ωです。R3 3.3kΩ、R4 68kΩ C4 47(入力ミス:555 ICのVCC電圧に超ローパスフィルタ。MOSFETへの影響はないみたいです。)です。

L1の容量に関して、右下図に示す関係にあります。容量が小さいほどリギング電圧とバッテリー端に発生する電圧は大きくできますが、L1を流れる電流が大きくなります。バッテリー端を流れる電流も大きくなります。

バッテリー端のリギング電圧を優先させるなら 10uHを選定し、 L1電流を優先させるなら 22uH を選定することになります。

L1容量バッテリー端L1 電流
[uH]電圧 {Vp-p]電流 [Arms]max [V]avg [V]
107.10.933.911.76
224.70.602.451.67


左図:L1が22μHのときの時間波形 右図:横軸をL1容量(対数軸)

L2容量の影響

L2を1μFから1000μFまで段階的に変えてシミュレーションした結果を下図に示します。このときのL2内部抵抗は、容量100uHの抵抗値120mΩを基準にしてL2の容量比例としました。C3コンデンサは1n(ONパルス 2.2us)で固定です。L1は22μHとし内部抵抗も固定です。バッテリーの内部抵抗は1Ωです。R3 3.3kΩ、R4 68kΩ C4 47(入力ミス:555 ICのVCC電圧に超ローパスフィルタ。MOSFETへの影響はないみたいです。)です。

L2の容量に関して、右下図に示す関係にあります。容量が小さいほどリギング電圧とバッテリー端に発生する電圧は大きくできますが、L1やL2を流れる電流が大きくなります。バッテリー端を流れる電流も大きくなります。

L1を22μH 3Aにするなら、L2は10uH 2A のものがあればそれがリギング電圧を最も大きくできます。あるいは、L1を10μH 2Aにするなら、L2は100μH 1.5A程度のものが使えそうです。

L2容量L2電流バッテリー端L1 電流
[uH]avg [V]電圧 {Vp-p]電流 [Arms]max [V]avg [V]
101.824.950.572.441.66
221.684.550.572.311.53
1001.243.400.501.851.08
1,0000.481.930.411.170.32


左図:L2が100μHのときの時間波形 右図:横軸をL2容量(対数軸)


コンポーネント・セレクション結果

  • ONパルスが長いほどL1インダクターを流れる電流が大きくなる。(L2やバッテリー電流も同じ傾向)
  • NE555PのデーターシートではONパルスが10μs以上となってるが、L1に流れる電流が許容値を超える。
  • 使用するL1インダクターは 22μH 3A であり、ONパルスを3μs以下で設定する。
  • L2は100μH 1.9A のものを使って問題ない。


LTspiceモデル


ONパルス時間や周波数の測定に「伝スパ」のスクリプトを利用させていただいています。

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