Amazonで入手した格安スポット溶接機を気の向くまま調べてみる

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インパクトドライバ用の12Vニッカド電池のセルの組み換えを考えています。そのために、セルのタグ溶接用にスポット溶接機を購入しました。Youtubeでよく見かける格安スポット溶接機です。手始めに回路を調べて溶接機の仕組みを理解してみようと思います。

格安スポット溶接機キットを試す

12Vスポット溶接機

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格安スポット溶接機キットを試す

格安スポット溶接機キットを試す

バッテリー式のスポット溶接機が市販されている。溶接の仕組みは、バッテリーから短時間のパルス電流をニッケルタブに直接流して加熱させ溶着するというもの。試しにバッテリー外付けタイプの格安キットをAliExpressで購入し、本当に溶接できるもの


目次
  1. Amazon購入ですが中華発送
  2. 電源バッテリーの考察
    1. 求められる性能ランク
    2. 求められるCCA
    3. 求められる内部抵抗値
  3. 基板調査
  4. 電源の検討(内部抵抗)
    1. ジャンプスターター
    2. 小型バッテリー WP1236W
    3. 溶接電流のキャリブレーション(予備試験)
    4. 懸念点(問題点)
  5. 組み立て完成
  6. 溶接結果
    1. Arteck ジャンプスターター
      1. 強度5での溶接具合
      2. オシロ測定波形
    2. 小型バッテリー WP1236W
      1. 溶接具合
      2. オシロ測定波形
    3. 小型バッテリー WP1236W(フルチャージ)
  7. スパークした話
  8. まとめ

Amazon購入ですが中華発送

買うときは気づかなかったのですが、見出しのとおりです。Amazonの発送履歴によると、13日にポチっとしたら16日に出荷され、21日に届きました。Aliexpressよりもずいぶん早くて値段も安かったです。


中華スタイルの梱包内容です。基板の傷付きが気になるのですが、それはさすがに別の小袋に入っていました。


  • バッテリケーブルは、長さ21cmの10AWG:計算上の抵抗 0.7mΩ/本
  • 電極のケーブルは、 長さ27cmの10AWG:計算上の抵抗 0.9mΩ/本
  • MOSFETは、G011N04 : オン抵抗 0.9 - 1.2 mΩ, Vds 40V Id 320A (生産元はHuayi Microelectronics Co., Ltd. という中国メーカ)


電源バッテリーの考察

写真に示しますが、このような注意書きがありました。
  • 2200uFのコンデンサを間違ってつけるな(極性のことか?)
  • 14.6V以上で使うな
  • バッテリーは30~40Ahのものを使うこと
  • もし、45Ah以上のバッテリーを使うなら、バッテリケーブルを80cmにする(80cm延長かも?)こと

鉛バッテリーでは極板の大きいほど内部抵抗が小さくなるので、容量が大きくて極板の大きなバッテリーほど内部抵抗が小さいと言えます。こう考えると、容量の制約を設けているのは内部抵抗に適値があるものと考えられます。

45Ah以上のバッテリーに関しての注意書きについては、既存のバッテリケーブル長27cmから+80cm追加しても 2.6mΩ しか変わらないので、バッテリーの内部抵抗に置き換えるとバラツキや誤差でしかないと思います。長くする理由をケーブルの焼損防止と書いているのですが、それも意味不明です。

でも、こんな動画がありました。50Ah のバッテリーでは強すぎたので、バッテリーケーブルを40cm長くしたら、ほどよくなったという事例です。

この動画では次のバッテリーが良いとコメントされています。
  • Pbバッテリなら、CCA 400~600
  • リポバッテリーなら、C30 5000mAh以上 (Cとは充放電特性の指標:電気量の単位クローン=容量[Ah]/3600[sec] )



求められる性能ランク

注意書きの容量から換算すると、車用の鉛バッテリーなら44Bから55Dを使うと良さそうです。


求められるCCA

内部抵抗は公開情報がありませんが、CCAはバッテリーメーカが公開しています。内部抵抗とCCA(Cold Cranking Ampere)は関連がありそうですので、前述の容量の範囲でのCCAを下記に示します。これを見ると空色の範囲(CCA 300~370)がスポット溶接機の適用範囲と読めます。

サイズJIS規格CCA値
A19
28A19L210
30A19L230
32A19L240
34A19L255
B17
26B17L185
28B17L195
34B17L240
B19
28B19L190
34B19L240
38B19L265
40B19L270
42B19L290
44B19L310
46B19L330
B20
36B20L260
38B20L265
44B20L300
B24
46B24L295
50B24L325
55B24L370
60B24L405
65B24L445

求められる内部抵抗値

ネットに挙がっている測定実績を拾い集めて、PbバッテリーのCCAと内部抵抗の関係をグラフ化してみました。CCA 300 を超えるときの内部抵抗は10mΩ以下と言えます。



基板調査




写真の下半分中央寄りにある8本足は8051系の8ビットマイコン”STC 15W204S” です。これはスイッチで代用して、主要部分だけLTspiceの回路図にしました。また、MOSFETはLTspiceのデフォルトモデルから電圧とオン抵抗が似ているものを選びました。

マイコンを動かす5Vを78L05で作り、マイコンの制御信号でフォトカプラPC817Cを介してMOSFETのゲート電圧をON/OFFしているようです。R3, R4, R5 はフォトカプラの調整用の抵抗です。

また、R1, R2 はそれぞれがドレイン電圧(電極用ケーブルのマイナス極)とソース電圧(バッテリーのマイナス極)につながっていました。それぞれの電圧はこれらの抵抗を介してマイコンに入っています。電極をワークに押し付けてショートさせると、ドレイン電圧が電源電圧になるので、これをマイコンで見て一瞬遅らせてゲート電圧をONさせているのだと思います。この動作はLTspice回路からは省いていて、解析はドレインが電源とショートしている状態(5mΩの溶接抵抗)として行いました。


MOSFETのON抵抗は1.2mΩが5つ並列なので0.24mΩ、電極用ケーブルでの抵抗は1mΩ x 2 です。これらは溶接ワークの接触抵抗と電源バッテリーの内部抵抗に比べわずかです。したがって、溶接電流は溶接ワークの接触抵抗と電源バッテリーの内部抵抗の大きさで決まると言えます。


バッテリーの内部抵抗を調べてみると次のような値でした。
  • 新品の鉛バッテリーで5mΩ程度
  • 新品のリチウムイオンバッテリー(18650)で15mΩ、劣化品で100mΩ
バッテリーには手持ちのジャンプスターターを考えています。カタログ値は出力800Aなので、12(A)800(V)=15(mΩ) \displaystyle \frac{12(A)}{800(V)}=15 (mΩ) になります。この値を仮に利用すると、550A流れる計算です。


マイナス側の電極用ケーブルと並列に置いている可変抵抗U1は、電流計測のためにキャリブレーションを取る可変抵抗です。電極用ケーブルに生じる電圧降下を併設した可変抵抗で分圧して、きりの良い値(例えば、500A/250mV)を狙うという目論見です。溶接の状態と流す電流との関係を見るためです。




可変抵抗を50%の設定にしてこの条件で計算してみると、543A流れたときに可変抵抗での電圧は273mVとほぼ狙いのゲイン(キャリブレーション)になりました。



電源の検討(内部抵抗)

電源には車用のPbバッテリーが推奨されているのですが、できれば部屋の中で使いたいのでそのバッテリーには抵抗があります。それよりも、何年か前に買ったジャンプスターターがあるので、使えるならこれにしたいと思います。使えるかどうかの判断は、内部抵抗が小さくて大電流を取りだせるか否かです。

一般のスポット溶接機ならナゲット計3.3mmで3.2kAとあります。ここのデータを見るとナゲット径と溶接電流は比例関係にあります。ネットに挙がっているこのタイプの溶接機の事例を見ると、ナゲット径は0.5mm程度です。電流とナゲット径の比例関係をあてはめると、3.2k×0.53.3=0.5k(A) \displaystyle 3.2k \times \frac{0.5}{3.3} = 0.5k (A) となります。これを判断基準にするならば、先に示したLTspiceの解析事例が電流543Aで、そのときの内部抵抗が15mΩです。この値はあくまでも理想的な溶接条件であって、実際に溶接できなければ何の意味にもなりません。そうは思いますが、一応のめやすにしておきます。

  • 溶接電流:              550A
  • 電源の内部抵抗:    15mΩ

ジャンプスターター

6年前にAmazonで買った人気のジャンプスターターを調べてみます。車に置きっぱなしで、2年前にバッテリ上がりのEHV車を動かしたことがあります。

このために作った自作の内部抵抗計で、36mΩ でした。前述のLTspiceモデルで計算すると溶接電流は270A になりました。

小型バッテリー WP1236W

念のために密閉型の鉛バッテリーをAmazonで購入しました。カタログ値では内部抵抗14mΩだったことと、このバッテリーで溶接している動画をYoutubeで見たので、これをポチリました。

自作内部抵抗計での測定結果は 30mΩ、LTSpice計算の溶接電流は 315A です。




溶接電流のキャリブレーション(予備試験)

予備試験を下の写真のように行いました。電極用のケーブルと並列に電圧を青色配線で取り出して、半固定抵抗を介してグランドへ持っていきます。

5Aの電流を流したときに、半固定抵抗の中間点とグランド間の電圧が2.5mVになるように調整しました。その上の6.413mVは電源ケーブル全体での電圧降下です。
流す電流を5A から、4A, 3A, 2A ...と変えたときに、2.5mVが 2mV, 1.5, 1 ... とリニアに変わることを確認しました。


懸念点(問題点)

  1. つまみの回転に対して電圧の変化が敏感過ぎるので、トリマのタイプに変更しました。
  2. 2.5mV/5Aに設定していても、次に測ると多いときには20%ほども変わってしまいます。
  3. 不具合ではなくこういうもののようなので、電流測定の要所でキャリブレーションをすることにしました。

2番目の問題がこの測定方法のダメなところです。mVの測定なので接触抵抗が原因かと思い色々抜き差ししてみましたが、そこではなさそうでした。

考えられることは、大電流を流すことによるケーブル導体の発熱とそれによる抵抗の増加と推定します。ケーブル全体の電位差を可変抵抗で分圧して、体感的にわかりやすい数値への変換をしているだけなので、おおもとのケーブル全体の電位差が変われば、それに比例して分圧した電位差も変わります。

銅線の温度上昇は θ = 0.008(I/A)^2×t という計算式で算出できるらしいので、これで温度上昇を計算してみます。この式はどうも定常状態での計算式のようなので、今回のような過渡状態にはあてはまらないとは思いますが、一応の目安として考えます。

I:     電流 500A
A:    銅線の断面積 8mm28mm^2 (10AWG)
t:     通電時間 17ms (溶接強度5)
Q0.008×50082×171000=0.5[deg]\displaystyle Q=0.008 \times \frac{500}{8}^2 \times \frac{17}{1000} = 0.5 [deg]

この条件でスポット溶接を10回繰り返すと、ケーブルは5度温度上昇します。
銅線の温度係数が0.00393のとき、抵抗は0.00393×5=0.0190.00393 \times 5 = 0.019 つまり、2%変化することになります。


組み立て完成

前述した黄色線の溶接電流以外に、ゲート電圧と電極間電圧も測れるようにしました。ケースはショート防止のためダイソーに売っていた名刺入れを加工して作りました。


ゲート電圧は緑線でフォトカプラのエミッタ(#3ピン)、電極間電圧は赤色線でプラスの電極用ケーブルの基板側から持ってきています。グランドはマイナスの電極ケーブルの基板側(MOSFETのドレイン電圧)です。



溶接結果

Arteck ジャンプスターター

期待と不安が入り混じって、Youtube動画を参考に恐る恐る溶接してみました。

表のように残念な結果です。電流が少なく必要な発熱量が得られない状況です。フル充電での結果なので、これ以上向上させる手はありません。

LTspiceのシミュレーションでは、電源電圧12.5V、内部抵抗36mΩの条件で 280A になりますが、それよりも多くの電流を流すことができています。モデルを合わせこむには、内部抵抗の値が25mΩであると、380A流れます。


電源電圧溶接強度溶接電流印加時間溶接具合
[V]基板ボタン[A][ms]
Arteck12.35813803.3圧痕
Jump Starter33608.8圧痕
538017指ではがれる


強度5での溶接具合

ストリップはキット付属の7㎜幅、厚さ0.1mmです。
見た目はしっかりついているように見えますが、指ではがしただけで取れました。


オシロ測定波形

おのおのの波形とも共通で、黄色が溶接電流で、青がゲート電圧です。横軸は5.0ms/div、縦軸は溶接電流(黄色)が 200V/div、ゲート電圧が 5V/div です。

溶接電流は印加時には瞬間的に1000Aを超えるサージが発生しています。一様に比較するため、停止するときの電流値を溶接電流として読み取ることにしました。ゲート電圧は25Vの値が出ていますが理由はわかりません。ACレンジで測定していることが原因かもしれません。

溶接の強度を変えると、印加時間が長くなります。強度1の3ms から、強度5では17ms です。強度の変更は通電時間の違いだけでが、全体での発熱量が変わりますので溶接具合が変わるのだと思います。

Jump Starter 強度1

Jump Starter 強度3

Jump Starter 強度5


小型バッテリー WP1236W

実測の内部抵抗の値からすれば、ジャンプスターターとあまり違いはないかと予想(悲観)していましたが、強度をあげるとぎりぎり使えるレベルかなぁと思っています。ただし、youtube動画の車用のバッテリーの場合に比べれば、溶接性能は見劣りします。


電源電圧溶接強度溶接電流印加時間溶接具合
[V]基板ボタン[A][ms]
密閉式小型12.8114973.3指ではがれる
LONG34818.6指ではがれる
WP1236W12.76547516.8ペンチではがれる

溶接具合

youtube動画の例に比べて、スポットのナゲットは大きい割に強度がそれほど高くないように思います。
ペンチではがすほどの強度があるのは、強度5だけでした。

表(電極押圧側) 左から強度1,3,5

裏 左から強度1,3,5

オシロ測定波形

印加時のサージ電流は650A程度でジャンプスターターに比べ小さくなっています。容量の影響でしょうか?

電流はジャンプスターターに比べ100Aほど大きいので、溶接具合やスポットの見た目がジャンプスターターの場合よりも良好です。

WP1236W 強度1



WP1236W 強度3



WP1236W 強度5

小型バッテリー WP1236W(フルチャージ)

フルチャージすると電圧が13.1Vになりましたので、これで溶接電流を調べてみました。
増分はわずかですが、520Aほどまで上げることができます。溶接具合は一番強固に溶接されています。

電源電圧溶接強度溶接電流溶接具合
[V]基板ボタン[A]
WP1236W13.111522ペンチではがれる 一番強固
フルチャージ3531ペンチではがれる 一番強固
5503ペンチではがれる 一番強固
1529ペンチではがれる 一番強固
3500ペンチではがれる 一番強固
13.055502ペンチではがれる 一番強固


溶接強度 1 溶接電流 529A


溶接強度 3 溶接電流 500A


溶接強度 5 溶接電流 502A



スパークした話

同じようにワークに電極を押し付けるのですが、同じようにやってもこの動画のようにバッチッという大きな音とともに大きな火花が出るときがあります。




こうなると、以後、溶接できなくなる場合がありました。マイコンがゲート電圧をONする動作をしていないようです。原因はスパークによって電極にススが付着して電極の導電性が悪化した(ショートしない)からだと思います。

スパークした後の電極を拡大すると写真のようになっていました。これを紙やすりでこすってやると、また溶接できるようになりました。


なお、スパークが発生したときは溶接に失敗します。そのときの溶接電流をオシロでみると下図のようであり、ゲート電圧は正常に立ち上がっていても、溶接電流がハンチングを起こして、大電流を保持できていない様子が見られます。

スパーク 溶接強度1


スパーク 溶接強度3

まとめ

  • 数年前に買って車の中で放置していた手持ちのジャンプスターターでは溶接できませんでした。原因は内部抵抗が36mΩあるため、溶接電流が500Aも出ないことだと思います。
  • 小型の密閉式PbバッテリーWP1236Wでは、条件によってうまく溶接できます。このバッテリーの内部抵抗は30mΩで、溶接電流は520A程度出せます。
  • 溶接電流の目標値 550A を出すためには内部抵抗15mΩ以下のバッテリーが必要です。安定した溶接を考えると理想は10mΩ以下です。これは、CCA 300以上になります。
  • これが実現できるのは、新品の40B19L(軽トラ用)です。あるいは、3S(11.1V)のリポバッテリーを2個以上並列につないで使うと実現できそうです。
 

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