前報でパラメータースタディした結果を踏まえて、ブレッドボード上で回路を組み、ONパルスとリギング電圧の様子を観察します。
コンポーネント・セレクション(ブレッドボードの試験回路)
ブレッドボードでこの回路を組んで評価しました。
555 IC
MOSFET
MOSFETは手持ちの2SK2232を使います。このMOSFETをWeb上の製作例で使われているMOSFETとのスペック比較をしておきます。太字にしたのはドレイン電圧の大きさに影響するであろうパラメータです。
2SK2232を使った製作事例もありました。このMOSFETのON抵抗は小さいのですが、Input Capacitanceやターンオフ時間、ゲート入力電荷量は大きくて、瞬間的な電荷の放出で大きな電圧を発生させることには向いていないのかもしれません。
インダクター L1、L2
手持ち在庫からの選択なので、Web上の製作事例に比べて小さい容量です。前報のシミュレーションでは次の特徴がありました。
- L1:容量が小さいほどリギング電圧は大きい。電流が大きい。
- L2:容量が小さいほどリギング電圧は大きい。電流が大きい。
- ONパルス時間を大きくするとリギング電圧を大きくできるが、L1、L2の最大電流の制約がある。
次に示す4つのグラフは、オシロを使って波形を読み取り、ドレイン電圧とバッテリー電流をONパルス時間と周波数に関してみたものです。ONパルス時間は1~3μsで検討しています。ONパルス時間に比例して、ドレイン電圧とバッテリー電流が増加しています。同様に周波数が高くなれば、ドレイン電圧とバッテリー電流が大きくなります。
ONパルス時間と周波数を得る組み合わせは後述しますが、C3容量とR4抵抗は固定しています。
部品選定は、バッテリー電流が1000mA以下(注記*1)になるように行いました。このとき、ONパルス時間は2.5μs以下で、ドレイン電圧は最大55Vになります。
周波数については、グラフに示すようにドレイン電圧とバッテリー電流との間に強い相関はないので、2次的なものとして見ておきます。(周波数を大きく振った条件で試験していないので影響は不明です。)
注記*1
バッテリー電流が1000mA以下という選定条件は各デバイスの発熱状況から決めています。バッテリーの出口に0.1Ωのシャント抵抗を置き、AC電圧を”真のRMS”で測定したときの電圧値からの電流換算です。DC電流の測定も行いましたが、値が変動するので安定した数値になるACの”真のRMS”を使っています。測定されたDC電流の最大値とAC電流の真のRMSをプロットすると、このグラフになります。
バッテリー電流が1500mAのとき、室温25℃で各デバイスの温度は下記のように約60℃になりました。車載することを考えると、この温度ではヤバイかなぁと思います。
L1: 53℃
L2: 58℃
D1: 56℃
FET: 61℃
それが1000mA弱のときには、ほとんど発熱が感じられずFETで40℃弱でしたので、この値に決めました。
R7の影響
R3、R4、C3はNE555Pの発振条件を設定するデバイスで、ONパルスを直接設定できます。これはすでに前報のシミュレーションでも見てきたので、その他のデバイスの影響を見ていきます。
R7はパスコンのC4とともにNE555Pの電源電圧安定化のため、RCローパスフィルターを構成しています。
R7を大きくして接点周波数が下がると、ONパルス時間が短くなりリギング電圧が小さくなります。
C4の影響
バッテリーの内部抵抗の影響
内部抵抗が下がると、ONパルスやドレイン電圧も下がる傾向にありますが、顕著なのはバッテリーのリギング電圧への影響が大きいという点です。
本来のバッテリー内部抵抗 30mΩ のケースではシャント抵抗を使わないので、これをL1に直列に入れてL1電流を測定してみました。855mA(真のRMS)でした。
選択仕様
CASE n を仕様として選択しました。このときのONパルス波形とドレイン電圧、バッテリー(のリギング)電圧の波形は下図になります。パルスOFFできれいなリギングの発生をみることができます。
回路図
付加機能
- 作動モニター用LED
- 逆接保護(LED表示)と過大電流保護
- 作動電圧の設定: バッテリー電圧が13V以上で作動。それより低いと休止。
- 常時作動(LED表示)に切り換えるジャンパー: バッテリー電圧の制限を無くす。
1.作動モニター用LED
2.逆接保護(LED表示)と過大電流保護
ポリスイッチのデータシートをみると、RXEF050は10A程度の電流が流れると0.1secでトリップしますが、1~2Aでは数10~4secかかります。したがって、リギングで1A程度の電流が流れたとしても、トリップは起こりません。
3.作動電圧の設定
- ツェナーダイオードD4の電圧:12V
- 1N4148 D3の下駄をはかせた電圧:0.4V
- SA1015のEB電圧:0.6V
4.常時作動(LED表示)に切り換えるジャンパー
C4は重要
作ったモデルのシミュレーションではC4は特性に影響しませんでしたが、実際はNE555Pの挙動を決定する重要なデバイスです。
C4は0.1μfのセラコンを555 IC のVCC と GNDの直近に置きます。離してしまうと、NE555Pでは3μs以下のONパルスが作れませんでした。(データーシートでは10μs以上を推奨しています。)R3、R4の値とONパルスと周波数の挙動が理論計算とずれてしまいます。
ゴースト波形対策
当初、ONパルスに下図のようなゴースト波形が出ていました。ONが2重になり、周波数は仕様とはずいぶん異なっていました。
パスコン容量の変更とかでは対策できず、ONパルス時間を決めるC3コンデンサをVCC側からGND側へ移動すると、ゴーストがなくなりました。C3を100pfにして、555 IC を酷使していることも影響したのだとは思いますが、NE555PのデーターシートではVCC側にC3を置いている回路はなく、VCC側に置くことは推奨されていないのかと思います。
ゴースト波形が出ているときのバッテリ電流はDC測定では大きく、AC測定では小さく測定されています。測定の誤差とか方法のエラーも考えるのですが、同じ傾向でないので測定値が意味を持ちません。
バリデーション
リギング
測定結果を下記の表に示します。
ブレッドボードで決めた仕様(sel. n)でユニバーサル基板に組む(PCB q)と、ONパルスはほぼ同じにも関わらず、ドレイン電圧が60Vを超え、バッテリー電流は1885mAに倍増しました。この現象はバッテリーの内部抵抗を0.13Ωにすると、さらに増大しました。(PCB r)
あてずっぽうの推測ですけれど、下の写真のように、L1、MOSFET、D1ダイオード、バッテリー間の結線を太くして、電流が流れやすくなったためだと思っています。
そこで、これらを低減させるべく、R3を1.1kΩにしてONパルスが1.8μsにデチューンしました。(turned s)
デチューン前後の波形を次に示します。デチューンしたのでONパルス時間が短くなり、ドレイン電圧とバッテリー電圧が低減されています。振幅は小さくなりましたが、発振の収束具合は同じであることが確認できます。
作動電圧
電源電圧とR7抵抗を流れる電流の関係をプロットすると下図になります。電流はR7抵抗の電位差から換算しています。
基板にする前にブレッドボードで組んだときには、R7の下流に0.1Ωのシャント抵抗を置き電圧と電流を測定しています。このときの結果は今回の測定と同じでした。
12.4Vから電流が徐々に流れ始め、12.7Vになると20mAから一気に150mA以上流れます。戻りは12.7Vからだらだらと下がり始め、12.2Vで電流ゼロになります。
これを車載したときの動作に置き換えれば、バッテリー電圧が12V程度のエンジンOFFではNE555Pへの電流が止まっており、エンジンONすると電流が流れNE555Pが動きだす動作になります。エンジンOFFするとすぐに流れが止まることはなく、バッテリー電圧が徐々に低下して12.2Vになると電流が遮断されます。
安定化電源を利用するには
特性の測定には12VのPbバッテリー(LONG WP1236W)を使ってきました。電圧は12.7V出ています。運よく前項の作動電圧の設定と相まって、このバッテリーで作動させることができていました。
保有する安定化電源に出力の過電圧保護があるかどうかはわからないので、次図のようにダイオードで電源への逆流を止め、コンデンサで振動を与えるようにしたところ、バッテリー電圧の大きさは変わりますが、4~5MHzで振動するリギングの発振具合もうまく再現することができました。