安定化電源:帰還型と無帰還型をLTspiceで比較

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以前、Wii Uの15V出力のACアダプターを使ってLepyアンプの安定化電源を検討しました。このとき検討したのはDC-Arrow/DC-Yarrowなどとネットで紹介されているNON-NFB(NON-Negative Feed back)型の定電圧電源です。この回路から安定化電源部分だけを抽出してWii Uの15Vを使ってDC12V出力を得る構想をしました。今のところはLTspiceのシミュレーション検討だけで、実機の製作は未着手です。

ついでに帰還型のタイプについても、LTspiceで比較してみようと思います。

帰還型(NFB)定電圧電源

「定本 トランジスタ回路の設計」第10章の図18に掲示されている回路が、低雑音、低出力インピーダンスを実現しています。この本を持っていたので、早速、説明を理解しながら12V出力できるパラメータに置き換えてLTspiceで回路を組んでみました。


基準電圧V(op+)を作るツェナーダイオードはVz=3.9Vにしました。出力電圧Voutは可変抵抗(R1とR2で配分)で微調整できるようにしています。上図の回路記号を使ってVoutを表すと、
$$ \begin{aligned} Vout &=Vz \times\left(1+\frac{R 1 + R 5}{R 2 + R 3}\right)&= 12\\ \end{aligned} $$

の関係があります。このとき、分圧抵抗は合計で1KΩ程度に停めることが熱雑音に対して有効と説明されているブログがありましたので、そのとおりにしました。

ツェナーダイオードの作る基準電圧を安定させるため、オリジナルに対してCRのLPFを2段で追加しました。カットオフ周波数はCが10uFのときに1Hz程度、1uFのときに10Hz程度になります。

OPアンプには単電源のLM358を使います。また、出力用のトランジスタは低雑音の2SC2240を選択して、2A程度の電流を担保するためダーリントン接続のTTD1415Bとの2段構えにしました。この出力用トランジスタの構成は以前に検討したNON-NFB(DC-Yarrow_MOD)と同じです。

NJFETのJ1は,Q1のベース電流を供給するための定電流源です。この電流からQ1のベース電流を差し引いた電流がすべてOPアンプの出力端子に流れ込みます。出力電流を増やしながらシミュレーションしてみると、出力電流が50mAを超えるあたりからOPアンプに流れ込む電流が急増してOPアンプの出力が維持できなくなる現象が起きました。この現象はOPアンプの出力に直列に入っているツェナーダイオードのツェナー電圧Vzが3.3V以下で発生しました。

OPアンプの出力に直列に入っているツェナーダイオードはOPアンプの出力端子の電圧をGND側にレベルシフトするためのものです。Vz=3.3Vにしましたので、OPアンプの出力電圧は、15 - 3.3 = 11.7V になります。つまり、引用書籍には次のように説明されています。

OPアンプの正電源(8番ピン)は回路の出力電圧をそのまま使っているので,このツェナーダイオードがないとOPアンプの出力電圧が電源電圧よりも高くなってしまいます‘これではOPアンプがうまく動作しません。

時間軸0msから40msの間に0~2Aまで出力電流を増加させた場合のシミュレーションを下図に示します。Vout出力不足の対策として、直列に2kΩの抵抗を入れて電位差をつけています。

NJFETのソース電流(ドレイン電流)Is(J1)は0.4mA以下で、OPアンプへ流れ込む電流Ix(U3:OUT)も同様に0.4mA以下になっています。OPアンプの非反転入力側(+)が3V、反転入力側(-)が2.8Vでした。
OPアンプは二つの入力端子間の電位差がゼロになるように動作します。

と引用書籍にあるのですが、そうはなっていません。OPアンプの出力に入っているツェナーダイオードを3.3V → 5.1Vにすると反転入力(-)側が2.9Vになり、電位差が0.1Vにまで下がりました。


出力電流が増えると電圧が設計通りに立ち上がらない

負荷電流が増えるとOPアンプの正常な出力が得られず、その結果Vout出力が2A程度にしかならない現象について、その原因は私の知識では推測できないのですが、色々パラメータ・シミュレーションしてわかった状況をあげておきます。

直観的に言えば、NJFETから流れ出た電流がOPアンプ出力側へ流れ過ぎて、トランジスタQ1のベース電流が不足しているので、OPアンプ側へ流れにくくすることが対策だと思います。

  • 対策1:OPアンプの出力部のツェナーダイオードに直列に抵抗を入れる(>220Ω)
  • 対策2:OPアンプの出力部のツェナーダイオードはツェナー電圧の大きなものにする(>3.6V)
  • 対策3:OPアンプの出力部のツェナーダイオードの種類(LTspice モデル)を変える
対策1,2はFairchildの1N472*のモデルを利用したケースです。このとき、別種 (*1)のツェナーダイオードのモデルをベースにするとVz=3.0Vでも問題なく~2Aまで12V出力ができました。Fairchildの1N472*のモデルをベースにしてモデルのパラメータをひとつずつ別種ダイオードの値に合わせてみたのですが、ダメでした。複数のパラメータの変更が必要なようです。

別種 (*1): 1N750(4.7V)を元にして、ツェナー電圧をVb=3.0に変更したもの。
また、D1N4372(3.0V)でもOKでした。

ツェナーダイオードによって、OKになったりダメだったりしますので、作るときにはブレッドボードで仮組みして確認する必要がありそうです。

帰還型NFBと無帰還型NON-NFBの比較

比較する回路

素の状態を比較するため、入出力にLPFを入れず、出力の平滑コンデンサは10uFとしました。その回路図を示します。比較のシミュレーションは共通の電源にして、同時に計算させます。
aOUT : 帰還型
bOUT:無帰還型

帰還型


無帰還型(DC-Yarrow改)


入力電圧の変動に対する周波数特性

帰還型が100kHzまでフラットな特性に対して、無帰還型は低周波数から-20dB/decadeで低下し、100-100kHzを底にするバスタブ特性です。


入力電圧のステップ応答

入力電圧を14V、15Vと交互に切り換えた場合の出力電圧と電流の応答を見ます。フィードバックのかかる帰還型の応答が優れています。


入力リップルの低減効果

100kHz 0.2Vp-pのノコギリ波を重畳したDC15Vを入力して、その電源リップルの低減効果を見ます。入力(緑)に対して、無帰還型(赤)はきれいにリップルが低減できていますが、帰還型(青)は振幅がやや増えています。


出力インピーダンス

負荷側に電流源を設け電流を振幅1V、1kHzで振動させたときの出力インピーダンス(出力電圧 / 負荷電流)を見ます。

1kHzにおいて、帰還型 57.7mΩ 、無帰還型 41.8mΩ でした。





出力の安定性

負荷に流す電流をステップ上にON/OFFさせたときの出力電圧の様子を観察します。電流ON/OFFはスイッチデバイスで作り、直列に22Ωの抵抗を置きました。出力電圧が12Vのとき、0A / 0.54A を瞬時に切り換えます。





無帰還型の方が収束が早い結果となりました。(グラフの色が前項と違っています。)
負荷を
流れる電流
帰還型(赤)無帰還型(青)
半波振幅半波周期半波振幅半波周期
OFF53mV4.77us33mV3.30us
ON50mV4.44us30mv3.70us

まとめ

  • 入力電源の変動に対する安定性(周波数応答、ステップ応答)は、帰還型が優れています。
  • 入力リップルの低減に関しては、無帰還型が優れています。
  • 出力インピーダンスは無帰還型が低く優れていると言えます。(帰還型の0.7倍)
  • 出力変動に対する安定性(応答性、収束性)は無帰還型が優れています。

帰還型の注意点

出力段のコンデンサーはセラミックコンデンサーを使うと高周波域のESRが低すぎて発振する恐れがありますので、タンタルコンデンサーかアルミ電解コンデンサーを使います。引用元:SUDOTEK 低雑音電源回路追加

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