正負電源の素性(整流回路をLTspiceで考察)

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Hard Offで手に入れたトランス式のACアダプタを殻割して、±5Vの正負両電源を作ろうと思います。

正負両電源をGoogleで調べると、オーソドックスなブリッジ整流回路を利用した事例が色々と紹介されています。他の構成では両波倍電圧整流回路や正電圧の3端子レギュレータを2つ使ったデュアル電源回路といったものがありましたが、これらの製作事例は見つけられませんでした。

正負電源の回路

以下の2件は、mizunaga.jp「整流回路」からの引用です。

1)両波倍電圧整流回路による正負電源回路

両波倍電圧整流回路の2個のコンデンサの接続点を0Vにした正負電源回路です。
  • 直列接続されたコンデンサの両端で入力電圧の倍の電圧が得られます。
  • ブリッジ整流や両波整流に比べてリップルが大きくなります。
  • 小電流負荷で高い電圧が必要な場合に使用されます。
  • 正出力または負出力の出力リップルは電源周波数と同じになります。
  • 出力リップルの周波数は電源周波数の2倍になります。
  • ダイオードの逆耐電圧は、トランス2次側交流電圧の3倍以上必要です。


両波倍電圧整流回路による正負電源回路

2)ブリッジ整流回路による正負電源回路

ブリッジ整流回路のトランスのセンタ・タップと2個のコンデンサの接続点を0Vにした正負電源回路です。
  • 正出力または負出力の出力リップルは電源周波数の2倍になります。
  • 出力リップルは電源周波数の2倍になります。
  • ダイオードの逆耐電圧は、トランス2次側交流電圧の1.5倍以上必要です。


ブリッジ整流回路による正負電源回路

3)正負デュアル電源回路 (正電圧三端子レギュレータを使用)

さらに深堀りしていくと、renesasの「三端子レギュレータの使い方」という文書に、リップルに関して優位な正電圧三端子レギュレータ2個を用いた正・負デュアル電源の事例が載っていました。













さて、どの回路にしようか

トランス式のACアダプタを利用することが前提だと、2次側にセンタータップがあるトランスかどうかは、殻割してみないとわかりません。

さらに、3)例目ですと各々のコイルのセンタータップが表に出ている必要があります。トヨズミのHTW-1503などがこれに相当します。ものすごく興味をそそられますが、センター2本出しのACアダプタに巡り会える気がしません。これが手軽に実現できそうなのはACアダプタを2個使う方法だと思います。


シミュレーション比較

条件をできるだけ同じにして、シミュレーションをしてみます。

レギュレータ入力側                                出力側

平滑コンデンサ:4700uF                        4700uF
制振コンデンサ:0.1uF                           0.1uF

見る箇所は、整流前電圧、レギュレータの前後電圧とします。また、負荷に流れる電流は1mA, 50mA, 100mAの3ケースです。

1)両波倍電圧整流回路による正負電源回路

9V出力のトランスを想定しています。整流前で±12Vp-pの電圧が出ています。





2)ブリッジ整流回路による正負電源回路

センタータップ式、12V出力のトランスです。各々のインダクタンスは実測値です。



3)正負デュアル電源回路 (正電圧三端子レギュレータを使用)

トランスは2)と同じです。



番外編

tsuru3の日記;12V ACアダプターから±12Vを作る その2のブログ記事にプラス入力から鏡のようにマイナス出力をつくる回路が紹介されていました。発振周波数が比較的高い(250KHz)のでコイル、コンデンサーが小さくて済むらしいです。

回路の定数パラメータは前述した値にしています。ただし、NE555の発振があるので出力はLCのLPF(カットオフ周波数約700kHz)を入れています。発振回路ではシミュレーションに時間がかかりますが、条件をそろえるため計算時間も前の3例に揃えています。

また、電源入力は公称3.6V/650mAのトランス式ACアダプタをイメージしたトランスを置きました。これは出力を実測し、負荷による電圧降下やリップルを同等になるように調整しています。


整流回路があるだけなので、負荷電流の大きさに反比例して出力電圧は小さくなります。リップルは負荷電流に応じて大きくなります。その値は、負荷電流が50mAのときに120mV、100mAのときに200mVです。





シミュレーションまとめ

出力電圧の変動(リップル)でいえば、3)デュアル電源回路が一番高性能です。2番目が2)ブリッジ整流回路で、この2倍のリップルになるのが1)両波倍電圧整流回路です。

センタータップ2本出しのトランスはなかなかないので、現実的には殻割して幸運にもセンタータップがあれば2)ブリッジ整流回路で作るのだと思います。

1)両波倍電圧整流回路は平滑コンデンサの容量を2倍にすれば、リップルは2)ブリッジ整流回路と同等にできます。趣味で作るなら、コンデンサの価格の優先度が下がるので、これも選択肢かなぁと思っています。なおかつ、倍電圧ですから元々のACアダプタ電圧が低くて小さなサイズでも成り立つと思います。(シミュレーションは9V出力で検討しましたが、7V出力でもギリギリOKだと思います。3端子レギュレータで2V降下します。)

  • 負圧レギュレータ(LM7905)を使った場合には、出力電圧が -5.3Vとぴったりの -5.0Vにならないようです。一方、正圧レギュレータ2個使いのデュアル電源回路では、正負とも同じで±5.0V出力です。
  • 出力電圧の変動(リップル)は、デュアル電源回路では正負出力ともにゼロです。
  • 正電圧で見ると、両波倍電圧整流回路とブリッジ整流回路では、出力電圧の変動(リップル)がゼロですが、
  • 負電圧では両波倍電圧整流回路はブリッジ整流回路のほぼ2倍のリップルが出ています。
  • 番外編として検討した回路はリップルを気にする場合には使えません。

1) 両波倍電圧整流回路2) ブリッジ整流回路3) 正3端子による
デュアル電源回路
番外編
ミラー回路
負荷電流
[mA]
出力電圧
AVG(v(pos))
[V]
AVG(v(neg))
[V]
AVG(v(pos))
[V]
AVG(v(neg))
[V]
AVG(v(pos))
[V]
AVG(v(neg))
[V]
AVG(v(pos))
[V]
AVG(v(neg))
[V]
15.00285-5.33765.00285-5.369095.00285-5.002856.78999-6.79403
505.00281-5.333215.00281-5.363645.00281-5.002815.85909-5.86035
1005.00277-5.330025.00277-5.359565.00277-5.002775.24532-5.24511
負荷電流
[mA]
出力電圧の変動(peak to peak)
PP(v(pos))
[V]
PP(v(neg))
[V]
PP(v(pos))
[V]
PP(v(neg))
[V]
PP(v(pos))
[V]
PP(v(neg))
[V]
PP(v(pos))
[V]
PP(v(neg))
[V]
100.00030994400.000152588000.02375980.0216565
5000.0014448200.000816345000.115180.113646
10000.002524384.77E-070.00113678000.1882550.18971
負荷電流
[mA]
レギュレータ手前電圧の変動(peak to peak)
PP(v(prepos))
[V]
PP(v(preneg))
[V]
PP(v(prepos))
[V]
PP(v(preneg))
[V]
PP(v(prepos))
[V]
PP(v(preneg))
[V]
PP(v(prepos))
[V]
PP(v(preneg))
[V]
10.02737240.04142570.01354410.02038960.01491170.01490880.01511240.0219207
500.1822960.1924730.1024680.1089720.1038870.1038870.1049290.110174
1000.3221860.3356550.1486470.1514840.1532550.1532550.1811130.191104


参考:正電圧を負電圧に変換するDCコンバータモジュール

番外編と同じコンセプトのDCコンバータをモジュールにした製品がAliexpressで扱っていました。使用条件に少しずつ制約がありますが、条件が合えば1cm四方のとても小さなモジュールで安価なので手軽に使えそうです。



補足:平滑コンデンサ容量の適値について

コンデンサの容量を大きくすればリップルは小さくできます。その望むべき容量について、ブリッジ整流回路(全波整流回路)の場合は以下の関係が良いと言われているようです。

\[\omega CR \geq 30\]

ここで、ωは角周波数で ω=2πf (fはAC電源周波数)です。Cはコンデンサの容量(F)、Rは負荷抵抗(Ω)です。

この考え方について、電源回路リップル除去 ~平滑コンデンサ容量計算法〜 に説明がありました。

直流電圧の大きさに対する電圧の変動をリップル含有率 $\alpha$、時定数を$0.632T$としたとき、$T = \frac{2\pi}{\omega}$ですから、充放電に関して以下の関係が成り立ちます。

\[\frac{3}{8} (0.632 T) = \frac{3}{8} (0.632 \frac{2\pi}{\omega}) \leq \alpha CR\]
これを整理すると、リップル含有率 $\alpha$ に関して次式を得ます。
\[\frac{1.489}{\alpha} \leq \omega CR\]

$\alpha = 0.05$ のとき、$\omega CR \geq 30$、$\alpha = 0.03$ のとき、$\omega CR \geq 50$ になります。

半波整流回路の場合は、$\omega CR $ の値は全波整流回路の2倍になります。コンデンサの容量を2倍にすればブリッジ整流回路と同じリップルレベルに抑えられます。

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