AD9833のファンクションジェネレータを作って、周波数が比較的容易に変更できるようになりました。そこで、自作ミリバルのパラメータを試験的に色々変えて周波数特性を測ったのでまとめておきます。
0.まえがき
変更したのは、次の3種類の構成要素です。
- 整流回路の方式(半波整流、全波整流)
- ダイオードの種別(ショットキー1S4, シリコン 1N4148)
- オペアンプの種類(TL074, LT1364, LME49860)
図1 測定方法 |
直接比較するパラメータ以外はできるだけ揃えるようにしていますが、測定したタイミングとか、その段階で用意できたものなどの都合で、各比較項目を全く同一条件でという訳にはいきませんでした。
また、実際には上記のパラメータを変えると同じ周波数でもミリバルの出力電圧は変化します。これは、オペアンプ、ダイオードの各々でループゲインが異なるので当然の結果です。
これを揃えるために、1kHzを基準にしました。
つまり、AD9833が1kHzのサイン波を出力するときに、(オシロの読みは両振幅ですが、)出力波の片振幅がオシロスコープ表示で1.414Vp-pになるように発振器のアンプを調整しています。さらに、その時のミリバル出力がデジタルテスターでDC電圧1.000V(実効値として計測)となるようにミリバルのアンプを調整しています。微調整しますが、~10/1000位の値の変動はでます。
また、比較は1kHzを基準にしたdB換算で行います。
1.交流の整流回路(全波整流、半波整流)での差異
比較した全波と半波の回路を示します。
図1 全波整流ミリバル回路と半波整流ミリバル回路 |
オペアンプ:LT1364
ダイオード:1S4
-3dBとなる周波数で比較すると、
全波整流回路:110kHz
半波整流回路:50kHz
とかなりの違いがみられます。
2. ダイオードでの差異
手持ちがあったショットキーバリアダイオード(1S4)と小信号用の汎用的なオンセミコンダクター シリコンダイオード(1N4148)で比較しました。ともに秋月電子で入手したものです。ダイオード以外は同じです。
複合と単独とはブレッドボードの違いです。
複合:AD9833の出力部にミリバルを設けた回路
単独:ミリバルの単独回路(図1の前段ボルテージフォロアは入っています。)
オペアンプ:TL074、LT1364
-3dBとなる周波数で比較すると、
1S4: 100kHz
1N4148: 300kHz
とかなりの違いがみられます。オペアンプはLT1364の方が高周波寄りです。この差は1S4よりも1N4148の方が顕著です。
破線(ー ー ー)の”sin入力”とは、AD9833の出力する信号の周波数特性です。サイン波の振幅をオシロスコープで読み取っています。もう少し高周波域まで伸びると思っていたのですがちょっと残念です。
3. ダイオード違いでのシミュレーション
ダイオードによって応答性に差が出る原因を探るため、整流回路だけを抽出してLTspiceでシミュレーションを行ってみました。整流回路の単発波形と周波数特性を見てみます。
- 全波整流、半波整流
- シリコン(1N4148)、理想ダイオード、ショットキー(RB751SM-40)、ゲルマニュウム(1N60)
実験結果と結びつきません。
4. オペアンプでの差異
応答性の良いオペアンプから順に示すと、
- LT1364, LME49860(同等)
- TL074
大まかに言えば、スルーレート順といえますが、L1364とLME49860にはスルーレートほどの差異はありません。
オペアンプの変更はミリバル用のオペアンプとその前段のボルテージフォロア用のオペアンプの4回路をセットで変えています。
シミュレーションは、LT1364、1N4148を使い全波整流と半波整流で行いました。これはLTspiceのAC解析ではなく、TRAN過渡解析を1000msまで行い、LTspiceのmeasコマンドで0-1000ms区間の最大値を求めることで得ています。最大値を利用している理由は1000msではまだ値が増加しているケースもあるからです。
比較できるのは全波整流の結果ですが、シミュレーションは実測結果とよく一致しています。一事例だけなのですが、spice modelで周波数応答を表すことができるといえます。
300kHzより高い周波数では、シミュレーションが実測よりもゲインが低い結果になっています。これについては、シミュレーションを一律1000msで打ち切ったことが原因だと思っています。周波数が高くなるほど計算時間がかかり、500kHzでは1000ms計算するのに30分程度かかります。半波整流回路ではすぐに一定値に収束するのですが、全波整流回路の100kHz以上では1000msはまだ漸増の途中です。したがって、計算時間をもっと長くすれば実験値に近づくと推定しています。
5. AC解析シミュレーションを利用したいけど、
シミュレーションしたのは下図のモデルです。省いた方が短時間でシミュレーションできるだろうと、前段のボルテージフォロアは省略しています。
前段部の省略が結果に影響を与えないことは、ボルテージフォロア部の周波数特性で確認しています。(-0.2dB@500kHz)
図7の回路をLTspiceでAC解析すると図9,10の結果が得られます。これをどう読めばシミュレーションを活用できるのかがわかりません。
例えば、図9で1MHzの時のゲインを見て、全波整流の方がゲインが高いので応答性が高いと言うとします。しかし、図10ではこの中では応答性の低いTL064,TL074がゲインが高くなっています。