バッテリーの内部抵抗が測りたくて、色々調べてみました。大きく分けて1A程度のDC電流を流して測る方法と、それではバッテリーに負担がかかるので10mA程度の交流を流して測る方法があるようです。調べた概要は以下に載せていますが、値段がネックで手が出ません。そこで、ネット情報をたよりに自作することにしました。写真のようにブレッドボードで作りました。
市場調査
いつも頼りにしているAmazonやAliexpressで探してみたところ、YR1035という商品が5000円位からあります。また、18650に限ると18650バッテリー容量テスターという基板むき出しの商品が千数百円であります。内部抵抗を測るのに5000円の出費はできないし、差し当たっては12Vバッテリーを測りたいので、適した商品がありません。
さらに詳しく調べていくと、imax 6b というリポ・バッテリーの充放電器で内部抵抗が測れるようです。ラッキーなことに、これは以前に購入していたので引っ張り出してきました。しかし、起動しても ”BATT RESISTANCE” の内部抵抗測定メニューが出てきません。どうもこれはV2 から追加された機能のようで、私が持っている初期品(コピー品)ではダメなようです。
交流4端子法によりμΩ~mΩオーダの非常に小さい抵抗を測定できるミリオームメータです。バッテリーテスタとして、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、鉛蓄電池、LiFe電池などの劣化状態をモニタリングできます。
引用元
自作できる回路を紹介しているブログがありましたので、これを作ることにします。測定には交流電圧を測れるテスターが別途に必要です。テスターの交流電圧で測った値が内部抵抗になります。
一般的には、交流式の内部抵抗計では1kHzの交流電流を流して(電流をON/OFFして)測るのが普通のようですが、引用元様は手軽なテスターで測れるようにと、70Hzの交流で作っている旨です。
この引用元で示された回路図どうりにLTspiceで組んでみたのですが、なぜかNE555が発振しません。よく見かける発振回路と違うのでそれが原因のようにも思います。引用元ブログのコメント欄にもそのようなやり取りが行われていました。
回路図の変更(555発振回路の変更)
Electrodoc という電子工作アプリをスマホに入れて使いっているので、それで調べると次の回路が出てきました。このアプリは任意の入力欄に所望の数値を入れると答えがでるので便利に使っています。
切りの良い同じ値の2つの抵抗とコンデンサでデューティ50%の70Hzが得られるのと、コンデンサC2を7nFに変更すれば1kHzにできるので、この回路を使うことにしました。
シミュレーション上で内部抵抗を変化させてみました。それに応じた交流電圧が下図のように発生します。このときの交流電圧値を抵抗に読みかえると、その内部抵抗値になるという仕組みです。(例、1Vならば、内部抵抗 1Ω)
下段の増幅回路は1段階目はボルテージフォロアなのはわかるのですが、2段階目は反転増幅回路だと説明されています。私の教科書的な知識では反転増幅回路にR7の220kの抵抗の役割が分かりませんでした。これがこの値(220k)だと矩形波状の波形が出力されます。
変化させた内部抵抗に関して、OUT+とOUT- の電位差をRMSを取って整理すると下記のグラフになりました。当然ながらきれいに直線に並ぶので、引用元の説明に則ってキャリブレーションすれば、趣味利用には問題のない内部抵抗計ができそうです。
横軸:与えた内部抵抗[Ω] 縦軸:計算された交流電圧値(真の実効値)[V] |
交流電流の周波数の影響(シミュレーション比較)
70Hzと1kHzの周波数違いで測定される内部抵抗値に違いが出るのか、興味本位でシミュレーションしてみました。シリーズに50mΩの抵抗いれて、RMS値と波形を比較します。
1kHzの方が値が高めの値で、元(バッテリーのシリーズ抵抗)の50mΩに近い値となりました。波形については、1kHzでは角に丸みが出ているのが分かります。
緑:70Hz オレンジ:1kHz |
測定結果
ブレッドボード上で組んだ回路は次の写真です。内部抵抗は54mΩを示しています。上半分がNE555発振の交流電流発生部で、下の半分がオペアンプでの増幅部になります。バッテリーの正負極から個々の機能部位への入出は1ラインずつにまとめて、4端子法を意識した配線にしました。
赤丸はNE555のRSTをGNDにショートさせる測定ON/OFFスイッチです。BATT+とBATTー の間にある2つの大きな抵抗は、並列でぴったり1Ωになるように選定した抵抗で、この内部抵抗計のキャリブレーション用です。
測定サンプルは、Arteckのジャンプスターターと小型PbバッテリーWP1236Wです。ジャンプスターターは数年前に購入して車に置きっぱなしにしていたものですが、リチウムイオンバッテリーなので15~50mΩかなと考えています。WP1236Wはデーターシート値で14mΩなので期待できます。比較検証のために、交流電流の周波数を70Hzと1kHzの両方で測ってみます。周波数はコンデンサC2を70Hzは0.1uf、1kHzは7nF(2.2nF + 4.7nF)に変更します。
測定は高精度のDMM(Advanced R6552)、汎用テスター(OWON B35T)とオシロスコープ(Hanteck DOS1102)で行って比較します。
測定風景 Arteckジャンプスターター |
- NE555のRSTをGNDにショートすると発振しません。このときは電流が流れないので、バッテリー電圧の変動はないはずですが、実測すると数mΩから10数mΩの値が検出されました。測定回路を組んだ当初はこの値が1.6mΩだったので気にしていなかったのですが、今回、測定したときにはこのような値になっていました。ノイズの影響なのかも知れませんが原因は不明です。
- 測定値にはバッテリー正負極接点の接触状況が大きく影響します。ブレッドボートに入れる正負極のリード棒の入れ方で値が変動するので、何度か抜き差しして最小値を探しました。
- 汎用テスターB35Tの結果はDMM R6552の値とほぼ同じでした。B35Tの交流測定周波数に関しての仕様を見つけられませんでしたが、~300kHzまで測定できるR6552と同じなので、1kHzの値は正確に測定できていると考えています。
- オシロスコープの測定結果はDMMやテスターに比べて高めに出ます。実際の波形を見ると下図のようにノイズが載っているので、これを拾ったためかも知れません。(青が内部抵抗)
Arteckジャンプスターターの測定経緯
- a) 基準(1kHz)に対して、ブレッドボード上のバッテリープラス極接点を別の位置に変えたら、 36mΩから b)の66mΩにほぼ倍増しました。
- このとき、同時に交流電流の周波数も72Hz変えたので、この影響かと思い周波数を1kHzに戻したのですが、値は66mΩと大きなままでした。
- そこで、バッテリープラス極接点を抜き差ししてみると、d)の39mΩで最初の a) の値に近くに戻りました。
小型Pbバッテリー WP1236Wの測定経緯
- e) 基準(1kHz)から、バッテリープラス極接点を抜き差しして、最小になる接触状態 f) を探しました。33mΩから3mΩ低くなりました。
- この条件から交流電流の周波数だけを72Hzに変えてたのが g) です。38mΩと8mΩ大きくなっています。
- ここで、さらにバッテリープラス極接点を抜き差ししてみましたが、h) の38mΩと同じ値でした。
実測結果
- 交流電流の周波数が測定結果に影響するとは言えない。(1kHzの方が小さくなるケースのあった。)
- Arteckジャンプスターター 内部抵抗: 36mΩ
- 小型Pbバッテリー WP1236W 内部抵抗: 30mΩ
- 後日、スポット溶接機の電源として使用したときの実測した溶接電流とLTspiceの計算を比較すると、測定された内部抵抗は10mΩくらい高めに出ているようです。どちらも自作品での結果なので、なんとも言えない気もしています。
補足:予備試験結果
上記の測定をする前に行った測定の結果も載せておきます。バッテリー接点の接触具合が影響することを掴む前の測定なので、このばらつきが原因で上記と値に差異があります。
ニッカドバッテリー(アイリスオーヤマ CBN1420)や安定化電源も測定しました。
バージョンアップ
- ブレッドボードから同パターンのユニバーサル基板へ組み換え
- Aliexpressで入手したケルビンクリップを使用して4線化
- NE555のRSTをGNDにショートさせる測定ON/OFFスイッチにLEDを併設し測定時を可視化